見出し画像

【不思議な実話】私の夢供養❺

奈良へ

東京から帰宅した私は、翌日からいつものように老人ホームで働いた。そして次の休みには奈良へ向かった。東京旅行から十日後のことだ。

朝、母が心配するといけないので、行き先は告げずに家を出た。

母は霊感のある私のことをいつも心配している。

母にも霊感があるがかなりの怖がりだ。母は神社仏閣への参拝ですら気軽にはやりたがらない。そこが特別なパワースポットであることを感じるからだ。

『私が神社に行くと言ったら、母は心配するに違いないから・・・』車窓を流れる奈良ののどかな家並みを見ながら思った。

電車を乗り換えもうすぐ目的地に着くという頃になって、駅のホームで母にLINEした。一応、奈良に来たことだけは報告しておこうか。

『お母さん、今日は私、奈良に来てる。おみやげなにが欲しい?』母は大仏プリンがいいだろうか?などと思いながら送信する。

すると、すぐ折り返しのメッセージが来た。

石上いそのかみへ行くんか?』

(えっ・・・!?)驚いた。

『なんでわかったん?』

慌ててこちらも返事を送る。母にはそもそも東京のホテルで見た"いそのかみの亡霊"の話すらしていなかったのに、なぜわかった!?

『あんたが奈良っていうから、石上いそのかみ神宮へ行くんやと思った』と母。

・・・思い出した。そういえばここ数年前から、母は時々「石上神宮に行ってみたい」と何度か言っていた。パワースポットへの警戒心の強い母がそんなことを言うのは珍しいことだった。

『そうか・・・』と思った。

そうか。母はずっと前から今日のことを、私といそのかみの亡霊との出会いを予感していたのだ。

(やはり石上いそのかみ神宮には、行かねばならないなんらかの”さだめ“があるのかもな・・・。)

夢に出てきた『いそのかみ』と名乗る貴婦人の亡霊は、”自分たちの祖先は古くは石上神宮の神官の血筋である“とのメッセージを伝えてきた。ということは、彼らの祖先は物部氏だろう。

それが真実かどうかはわからないが、とりあえず今回は霊の言葉を信じてみる。

石上神宮が物部氏の神社であるということは、かつて饒速日命にぎはやひのみことについて調べたときにざっくり知った。この辺りの話は以下の記事に書いておいた。

『いそのかみと名乗る一族の亡霊』

上野長野氏こうづけながのし

『武田信玄を呪う怨霊』

これらは全く私には関係のないことばかりだ。正直言って私の知ったことではない。・・・・そう思いながらも、なぜかどうしても無視できない。ならば行ってみるしかない。

いそのかみの亡霊が祖先の地として慕っていたであろう場所へ、古代豪族•物部氏の里を目指し私は道を急いだ。

さだめの道

実は石上神宮のことはよく知らない。知っているのは物部氏の神社であるということくらいだった。歴史にうとい私には物部氏がなんなのかすらよくわからない。

ただ、頼みの綱は饒速日命だ。私は饒速日命のお祀りされている神社とはわりあい相性がいいように感じていた(あくまで当社比)。饒速日命は物部氏の祖先神だそうだから、きっと助けてくださる。心の中で饒速日命に祈りながら石上神宮へと急いだ。

山が見えてきた。参拝者駐車場と書かれた看板が山の脇の道を指し示している。どうやらここのようだ。

(しかし、空気が重い・・・・、アレ?嫌な予感がしてきた。)

(おかしいぞ、なんだこの暗い空気は?曇天のせいだけに思えない。そこはかとなく歓迎されてない気がする・・・・)

まずいところに来たのかもしれない。

ここに来れば、東京で遭遇した『いそのかみの亡霊』の謎が見えるかと思ったんだが・・・・。

(いや、落ち着け。まだどうなるかなんてわからないんだ。)怖気付く気持ちを奮い立たせ、饒速日命に祈りつつ前に進む。

石上神宮と書かれた石柱の横を足早に過ぎ、奥へと向かう。

道の先に見えてきた鳥居。あっちに行けばいいようだ。ふと、道の脇に立つ灯籠に目が止まった。

「えっ・・・・」

布留社ふるしゃ』と書かれてある。見覚えのある文字。

「ふ、布留・・・・?」

思い出した。

十年ほど前から夢に出てくる戦国時代の武士の家の子供たち。夢の中で、『はなだの城』の話を聞かせてくれた男女の双子・・・・

名前を『布津ふつ布留ふる』という。

雷に打たれたような衝撃が走る。

(『布留』という名は石上神宮に結びつく“なにか”だったんだ。)

おそらく『布都』の名もまた、石上神宮に結びつく古代神話由来の“なにか”なのだろう。道理で古めかしい響きの名だと思った…

「あの双子は、いそのかみ・・・・いや、上野長野氏の子供たちだったんだ・・・」

私がいそのかみの亡霊と出会ったのは、東京旅行がきっかけじゃなかったんだ。彼らはもうずっと前から私に憑いていたのだ。

いつから?・・・初めて双子の夢を見た十年前か?それとも私が生まれた時からか?いや、わからない・・・・

(やはり偶然じゃない、ここに来たのは。すべてはさだめられていた。)

鳥居の向こうにあるであろう社殿のほうを見て、私はしばし立ちつくした。



↓前回のお話はこちら

↓不思議な双子・布留と布都については以下をどうぞ

↓最初から読むにはこちら

応援していただけるととても嬉しいです!