歳差運動3-⑭

今年初めてのPTA授業参観が数日後に迫った。保護者に俺のつたない授業を見せるしかない胃の痛くなる日である。しかも保護者にとって俺は自分の子どもの新しい担任、よい意味でも悪い意味でも興味津々でやってくるに違いない。そう考えるとプレッシャーというか、かなりのストレスがかかる。    その後の保護者会などで批判に晒され早速職を辞する新任教師もいるくらいだ。

まず問題なのは何の教科を公開するかだ。

で、真っ先に浮かんだのが道徳。     

オマエ気でも狂ったか!と自分自身のことを警戒したが、おそらくこの前行った研修会の影響を受けているのだろうと沈着冷静な思考ができ、気を取り直したと同時に自分のことを褒めたくなった。

よくよく考えると道徳の授業も捨てたものじゃない。                

他の教科は、同じ学習内容の数時間計画の1時間だけを公開することになる。だから見せる時間は1時間だけだが他の時間とつながりを持たせなくちゃならない。授業参観の時だけいろいろ準備して力を入れてやっても、後の時間はいつもの手抜き授業ではいくら小学生相手でもかっこつけたよそ行き授業だと批判のそしりを受けるだろう。       ところが道徳は1話完結の連続ドラマのようなものだからその前後は関係がない。   それよりは1話1話が独立したオムニバス、短編集と言った方が適切かもしれない。小説の短編集にはおもしろい話とそうでない話が必ずあるではないか。だから、後の道徳の授業が面白くないとされても文句はないだろう、と自己中心的思考がだめを押した。

と気分よく話がまとまったところで授業参観のお題は道徳と決定した。

次は、見せる授業をするため、つまりスタンドプレーをするための技や工夫を考えなくてはいけないのだ。            今度の新しい担任の先生はよく頑張っているな、と錯覚させる何かが必要になる…

そこで、小説の短編集のハナシが出たことで思いついたのが自作教材をつくるという無謀な企みだった。

だが、そんなハードルが高く器用な真似は俺には無理だろうと2,3日間思案し二の足を踏んでいた…


~続く