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書評#3「建築はどうあるべきか 〜デモクラシーのアポロン〜」

ヴァルター・グロピウス著

モダニズムを代表する建築家ヴォルター・グロピウスの晩年(1950年代後半から60年代前半)の講演録。原書では「デモクラシーのアポロン」が主タイトルになっている。民主主義社会にはアポロ=芸術を司る神が必要だ、というメッセージだ。

グロピウスによれば、デモクラシーを世界に広めることに成功したアメリカの「欠陥」は、「審美的な規律の発達にほとんど注意を払わなかった」ことにある。その結果「われわれの社会には、洗練された美的センスが欠け」てしまったと主張する。

アート・マーケットを創造したのもアメリカの功績だが、美術館や財団などの美術業界に対しても、「おれは自分自身でぜいたくと考えていることにも金を出せる身分なのだと思っている人々に、『芸術鑑賞』を分け与える以上のことはできない」と手厳しい。

「民主主義が完全に成熟するためには、芸術家に最高度の威信を与えねばなりません」。しかし、言うは易しで、その実現のためには、大衆に対して美術についての「大きな教育的努力」が必要となる。ドイツでバウハウスを立ち上げ、アメリカでハーバードの建築学部長となって多くの芸術家を育てたグロピウスは、まさにその実践者だった。

最後に、本書の中の「日本の建築」という章の一節を引いておきたい。

「自然を説得し刺激するという日本的なアプローチの方が、自然を征服し開発するという西洋の支配的な方法よりも、より大きな将来の価値をもつ」

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