赤と白とロイヤルブルー/今こそおとぎ話がほしい

赤と白とロイヤルブルー、続編決定おめでとう!&コレクターズエディション日本語翻訳版出版おめでとう!
※2023年8月にはてなブログにて公開したものを転載します。

『赤と白とロイヤルブルー』、Amazon primeで公開された映画を観た。

予告が始まってからずーっとずーっと楽しみにしていて、原作の小説すら映画の後に読もうととっておくくらい映画のほうにかなり期待していたのだが、結果として期待以上に楽しめたので本当によかった。

久しぶりにこんな風にどきどきして、ときめいて、没頭した。

犬猿の仲だった英国王室の次男ヘンリー王子と米国大統領の息子アレックスが恋に落ち、同性同士であることや互いの環境のしがらみを乗り越えて結ばれるという、文脈だけでいえばありがちなラブロマンスだ。
そんなありがちなストーリーでありながら、なぜこの作品がこれほどまでおもしろいのか。
それは主人公二人を含めて登場人物がみな多種多様な人種、性的指向、個性の持ち主であるということ。政治や国のあり方についての眼差しは強いメッセージ性を持っていること。それらがうまく調和した結果、現代でも退屈することなく楽しめる豊かなものに成立している。

映画のほうは2時間の尺にまとめる都合もあったのか、重要な人物を何人も削り、展開も大幅に変わってしまった部分がある(特にアレックス周辺の選挙戦について)のでそこについての批判はちらほら見受けられた。
確かに社会的なメッセージとしては弱くなってしまっていたが、だからと言ってこの映画が駄作になったかと言えばそんなことはないと私は思ったな。原作よりずっと軽やかでカジュアルなラブコメディになった本作が本当にいとおしく感じた。

ひと昔もふた昔も前だったら、男と女でやっただろう。ほら、ローマの休日みたいな。それこそシェイクスピアみたいな。教養がないから思いつかないが、悲恋でなくともあるだろう。ベタすぎてもう誰もやらないような壮大で、それでいてチャーミングで、夢見るようなおとぎ話が。それをもう一度、今の在り方で、同性同士でやったって良いんじゃないだろうか。

私はもううんざりなんだ。同性同士だからと悲嘆に暮れて刹那に溺れるだけの"エモーショナル主義"は、フィクションで積極的に見たくない。フィクションだからこそ、もっと未来に希望を持ちたいよ。恋に落ちるなんてどんな人種だろうが性別だろうが立場だろうが、他人から見ればみんな馬鹿みたいに夢中になって、みっともなくなって。目も当てられないような状態で恥ずかしい言葉しか言えなくなる。そうやって浮かれていちゃいちゃして、すれ違って恋わずらいして、相手の一挙手一投足に見惚れてどろどろになるでしょう。ラブロマンスにおける二人の間の障害が「同性同士だから」じゃなくて、単に人間同士が一緒にいるって難しいよねってただそれだけであってほしい。
本作では、それに近づいていくような輝きを感じた。アレックスとヘンリーの愛は、選挙戦に、そして英国王室にダメージを与えうるものではあったけれど、それは「同性同士だから」というよりは、二人の立場が「公人だから」生まれる障害として描かれている。

実際、シンプルに考えれば当たり前のことなのだ。性的指向も、愛する人もかけがえがない。でも、公人には代わりがいる(王室という設定上、議論が必要だけれど、作中ヘンリーは王室は不要であるという主張をしていたので、その理論を借りるとする)。

「愛したのがお互いでなければ……」「どうして自分のセクシャリティは……」でなくて、「この立場でなければ……」と悩む歯痒い状況に、二人は自分がゲイであることも愛する人のアイデンティティ(性別が男性であること)も疑わないし、悩まないし、責めない。それがどれだけ尊いことか。大切なことか。このラブコメディを心から笑って観られるのは、だからこそだと思うのだ。

今だからこそ、おとぎ話だと笑い飛ばしてしまうようなハッピーエンドを味わいたい。異性同士でやり尽くしたようなテーマだって、まだヘンリーとアレックスでは見てないんだから。そして未来では、こんな当たり前のことが昔は障壁になってたんだねって、不思議だなって思えるように。


以下、細かい感想。


・まず、主演の二人が魅力的すぎる。原作読んでも思うけど、本当にぴったりで、そら好きになるわな。
・敬遠の仲ではあるんだけどそれは互いに魅力的に感じすぎていたからって典型的だけどいいよね。二人の嫌そうな笑顔が上手すぎて笑ってしまう。
・アレックスの米国人みとヘンリーの英国人みの典型感が面白すぎる。多分本国の人だともっと面白いんだろうな。大雑把でエネルギッシュでメキシコの血が入ったアレックスと、金髪白人で嫌味で神経質なヘンリー。
・メールするようになってからのシーン、いやもう好きじゃん?!?!ってなった。通話のボタンそっちがきってよのシーン、あれ大抵の恋人がやるやつだからね。無自覚でにやにやするアレックス。付き合う前のどっちつかずのいちゃいちゃっていいよね。
・年越しパーティー、演出がちょっとなぁとは思ったけど、ヘンリーは最高だった。アウェイに戸惑いながらも気品を失えない。微妙にズレたノリも、アレックスが知らない女性といるときの捨てられた子犬みたいな目も……。
・あの盛り上がって時が止まったような演出もちょっとベタすぎてと思うけど、ベタすぎるくらいがちょうどよいのかも。
・木の下でのキスシーン、言葉にならないくらいに最高。すべてを持ってる金髪白人王子がこんな風に涙目になって、心が動かされないやついる?
・アレックスの自身の性指向への戸惑いはもう少し映画でも深掘りしてほしかったなぁ。
・ノーラの台詞、まじで全部それなすぎて深く頷いちゃう。原作でもここの台詞本当好き。「I don't know」「come on!!!」のところ、ふたりの気心の知れた友人感すごくて好き。
・晩餐会のシーンが全部良すぎて困る。アレックスがヘンリーに見惚れるの、ヘンリーに恋してるのが何より伝わる。
・レッドルームでの二人の全てを見逃しちゃいけない。
・キスの後、パーティーに戻るとき必死にすかした顔しながら心からの笑みが溢れちゃう二人本当に涙出るくらい愛おしいな。
・ヘンリーが冗談言うときに眉毛に力入れる表情とびっくりしたときのアレックスのあほづらが世界遺産。
・全編通して、キスシーンベッドシーンを逸さずに官能的に描くところがあっぱれだなぁ。さすが洋画。美しい。
・激しく求め合ったあとのヘンリーが苦しい。常に張り詰めて、呼吸がずっと浅くて、目が潤んでる。上手いなぁ。それでもアレックスといるほんのひとときは口もとが綻んでて……。
・ポロと二人の逢瀬を重ねて描くの、原作でも本当にそんな感じなので正しいんだけどどうしても面白く感じてしまう。野生的でいいね。絶頂という感じ。
・「It's my life」「Prince Henry belongs to Britain」のところ、堪えながらもはっきりと言い切るのがヘンリーという人間を表していて良いシーン。良い演技。不安定で壊れそうで、でも弁えている。
・フランスの夜のシーン。本当に台詞も演技も映るものすべて良い。とても美しい。官能的だけど、決して下品ではない。セックスに夢を持たせるような描き方、おとぎ話で良いよなぁ。その後語り合うのも含めて。
・大統領母さん、いいなぁ。夢じゃんというのはその通りだけど、でも夢すぎない塩梅だと思う。
・アレックスが映画だと原作より苦悩や闘いが描かれないがちだったので、テキサスで政治に向き合っている様子が出ていたのは良い改変だった。メールでいちゃついてるのがわかるのもいいわ。
・ザハラにバレるシーン最高すぎる。ザハラって本当いい仕事してるよなぁ。殿下にブチギレなのまじでおもろくてそのときのヘンリーも見たことない顔してて好き。
・別荘でヘンリーが歌うのを見つめるアレックスの恋する表情がいい。ここでヘンリーが歌下手だったらいいのに、何やったって最高にかっこいいんだもんな。遠目で見る想い人は、近くで見るよりずっとずっと感傷的に思えるよね。
・宣材写真にもなってた、水着で寝そべる二人の美しさよ。深く求めてしまうアレックスは仕方ない、それだけお互い愛してるってもうわかってしまってたから。濡れた二人、アレックスにはヘンリーのあの表情が見えない構図になってるのが本当にね。
・ビー、本当にいてくれてよかった。「Do you love him?」「What difference would it make if I did?」良い。この話を美しい庭園でしているのが皮肉なんだよなぁ。
・アレックスの電話を無視するヘンリーがピアノを弾いてる。これを見て苦しくなって、またのちのシーンで胸が熱くなる。
・ここで海超えちゃうのがマジでアレックスすぎる。そしてそんなアレックスじゃないとヘンリーの恋人なんて無理だよな。
・ここでキレるヘンリーが辛くて良い。お互い苦しいシーンではあるんだけど、ヘンリーがアレックス相手なら感情を爆発できるんだというのが。残酷だけど「帰れ」って言われなきゃアレックスは納得できないし、ヘンリーも本心は求めてるんだもんな……。アレックス、本当に正しい対応をしたという感じ。
・博物館のシーン、よれよれのびちょびちょで、普段着で。それでもどれだけ拒絶してもあなたを愛することを諦めないと言ってくれた人と踊れる、なんて美しいんだろう。
・メールがバレる件も、レオが抹消されてしまったせいでこんな形になってしまったから納得はいかないよね。ただレオ出したら話がめちゃくちゃになっちゃうもんなぁ。
・アレックスのスピーチ、原作とはまったく違うんだけどこれは映画のスピーチが本当によかった。簡潔で、正しかった。シンプルに、二人が愛し合っていること。
・「He does this thing when he's worried」からの台詞、マジで一番好きまである。本当に好き……。そんなこと考えてる場合かよって緊急事態に、そんなとこ?って二人にしかわかんないような好きなところ思い出しちゃうの、恋すぎる。
・ヘンリーは「Baby」って呼ばれるのが好きって設定を原作で知ってからもう一度あの通話のシーン見て。お願い。
・「Hurry」「Please」と階段での抱擁を重ねるの本当に本当に素晴らしい。
・緊張をほぐそうとしているだけなんだけど、これからの二人の未来を予感もさせるようなピアノのシーンが本当に好きだ。二人が恋する瞳で互いを見ているのが好きだ。
・女王でなくなってしまったこととか、この話し合いの収束の仕方は全然納得いかなくて原作通りが良かったと思うけど、でもまぁ映画らしい演出とか尺考えると仕方ないのかなぁって感じ。陛下のいかにも英国貴族老人らしさは好きだけどね。
・テキサスの件もなぁ。出来過ぎ感はそうだけど、このおとぎ話の締めくくりにはそれくらいで良いのかもね。黄色のバラのネクタイよかった。
・アレックスとヘンリー、本当にぴったりの配役に、最高の芝居だった。二人の物語の続きが観たい。本当にただそれだけ……。→このふたりで続きが観られるよ、おれ、よかったね!!!!!


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