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雑穢 #1029

 碧さんが小学四年生の頃に、学校のトイレにお化けが出るという噂があった。四階建ての校舎の三階の女子トイレ。その奥から二番目の個室が、放課後になると使用中でもないのにドアが閉まっていて、中にお化けがいるという話だった。

 ある日の放課後、彼女は愛ちゃんと玲奈ちゃんという友達二人と三人でそのトイレに行った。するとその個室のドアが閉まっていた。ドアは何故か息でもしているように指先一本分ほどの隙間で開いたり閉じたりしていた。  三人は素知らぬ顔でトイレから出た。
「あれって、たぶんお化けだよね」
 そう口にしても、実のところ誰もお化けなど信じていなかった。ただ個室の内部に不審者でもいるのではないかと考えた。愛ちゃんが先生を呼んでくると、職員室まで走って行った。
 碧さんと玲奈ちゃんは、愛ちゃんが戻るのを待っていたが、なかなか戻ってこないので、再度トイレの中を覗くことにした。
「あれ、開いてる」
 先ほどまでドアが閉じかけていた個室が開いていた。
「ちょっと見てくるね」
 玲奈ちゃんは足音を立てないように個室へと足を踏み出した。
 碧さんは、やめなよと声を掛けようかと思ったが、言ったところで止めるような友人ではない。
 すると、あと数歩で個室というところで玲奈ちゃんが血相を変えて、こちらに駆けてくるではないか。

「中に阿部先生がいた!」
 トイレの個室に、みっちりと大型冷蔵庫のような体格の男性がはまっており、その顔が碧さん達の担任の阿部先生だったというのだ。
「でも……今から来るの、たぶん阿部先生だよね」
 愛ちゃんも、担任の阿部先生を連れてそろそろ戻ってくるだろう。
「ねぇ、碧ちゃんも確認してよ」
 そう言われて、碧さんは戸惑った。何かあったら危険ではないか。そう答えようとしたところに、階段を上がってくる足音が聞こえた。 「あ。戻ってきた!」
 階段を振り返ると、阿部先生が上がってくるところだった。
「うっわ」
 碧さんと玲奈ちゃんは、阿部先生の姿を認めるなり駆け出した。先生の顔が、普段の四倍くらいの大きさだったからだ。

 後日、愛ちゃんから何で待っていないで、先に帰っちゃったのかと責められた。男性の阿部先生は女子トイレには入れないという理由で、確認してくれたのは同行した隣のクラスを担任する女性教師だったが、個室の中には特に誰もいなかったという。

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