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雑穢 #1026

雑穢とは、実際に体験した人の存在する、不思議で、背筋をぞっとさせるような、とても短い怪談の呼称です。今夜も一話。お楽しみいただけましたなら幸いです——。


 鮮やかな青色のシートに包まれたものを、夜な夜な庭に出て触っていた記憶がある。
 中は何だかはっきりとはしなかったが、触れると温かい。今思えば、息を引き取ったばかりの大型犬の遺体をブルーシートに包めば、似た感じかもしれない。しかし、家はマンション住まいで犬を飼った覚えはないし、夜な夜な家から出て、そんなものに触れていたら、親だって気がつく。そもそも遺骸の体温はそんなに長時間維持されるわけもない。
 だから夢だと思っていた。
「お前が山の中で行方不明になった時は大変だったんだよ」
 父親がぽろりと漏らした。母も既に亡くなり、一人での生活もままならない上に、こちらも遠方に住んでいるので介護まで手が回らない。ただ、そのタイミングでたまたま運良く施設に入れた。その施設に向かう車の中でのことだ。
 自分が行方不明になったとは初耳だ。そう言うと、父親は「忘れてたんなら悪いことしちまったな」と呟いて、その後も独り言のような口調で続けた。
「カンブツサマを作っているとかいう男のところで保護されていたんだ。世捨て人のような男でね。後でお礼をしに行ったら、住処はもぬけの殻になっていたから、ちゃんとお礼できていないのが心残りでね」
 父親が何でこんな話をしているのかよくわからない。そうなんだ、と答えたが、それから施設までは二人とも無言だった。
 帰宅して布団に倒れた。運転し通しで疲れがひどい。風呂に入らないといけないと思っていると、意識が途切れた。
 ブルーシートに包まれた長細い何かが積まれている。木の枝にも、干しているのか、何かがぶら下げられている。いつの間にか子供の目線になっていて、不思議なものがあるなと思いながらそれらを眺めている。横には男が立って、何やら作業している。
 穴の中に何か臭いドロドロしたものを埋めて、上から白い粉を撒いているようだ。
 何をしているのと、幼い自分は男に話しかける。
「ここではカンブツサマを作っているのさ」
 聞いたことのない言葉に、再度問いかける。
「カンブツサマって何」
「そりゃ、ヒトデナシに決まっている」
「どうやって作るの」
 男が振り返った。男の顔の左半分は酷く焼け爛れていた。
 そこで目が覚めた。心臓が早鐘のように打っており、全身が嫌な汗で濡れていた。
 横にブルーシートに包まれたものが転がっていた。触れると温かく、モゾモゾと動いた。


雑穢

note版雑穢の前身となるシリーズはこちらに収録されています。一話130文字程度の、極めて短い怪談が1000話収録されています。

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