少子化

少子化について



少子化は普遍的な現象である

今回は日本の少子化問題について考えるが、最初に明言しておきたいことがある。それは、少子化自体は先進国であれば必然的に発生する現象であるということだ。専門用語では人口転換、ないし出生力転換と呼ばれる。

発展途上国の家庭は多産となる傾向がある。発展途上国では子供の死亡率が高いため、何人かは途中で亡くなるという前提で子供を産まなければならない(多産多死)。また、教育システムや、教育を子供に受けさせることを可能とする経済基盤が整備されていないため、先進国では小学校に通うくらいの年齢から労働力として扱われることも発展途上国では珍しくない。
言い方を変えると、発展途上国では子供を育てるコストは相対的に低く、子供がいることによる経済的利点が相対的に大きい、ということである。

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フィリピンのとある家族。子供は大事な労働力とみなされている。
(画像引用元:https://gloleacebu.com/numberofchildren/)

医療の発達、小児福祉の整備によって子供の死亡率は下がる。だが、こうした技術や政策の発展は概して価値観の変化よりも早いため、子供の死亡率が下がった社会でも、子供をたくさん産むことを前提とした社会システムはしばらく残り続け、人口爆発につながる(多産少死)。

現在の先進国は、子供をあまり産まないことを前提とした社会システムとなっている。日本においては子供のほぼ全てが高校までは進学し、さらに大学まで進学することが経済的には望ましいとされている。子供の労働は法的・価値観的に厳しく規制されているため(高校でもアルバイトが校則で禁止されていることは決して珍しくはない)、子供が経済的価値を生み出すまでには20年前後かかる社会となっている。

「異常な」少子化

つまり、少子化そのものは問題ではない。日本において少子化が問題とされるのは、その程度が深刻なためである。

確かに、どの先進国でも(今や一部の発展途上国においても)少子化は進行している。だが、国によって出生率が2.0近辺で落ち着く国と1.5未満にまで減少する国がある。日本は後者であり、この場合、当然人口の維持が不可能となる。それどころか、子供と労働者人口の減る速度が速すぎるため、社会システムの転換すら間に合わないのではないかとまで言われている。では、日本の出生率がここまで下がってしまったのは何故なのだろうか。

子供をもうける理由には当然「子供がかわいいから」といった感情的な理由もあるが、話を単純化するために損得の問題として考える。そうすると、

子供を産み育てることによる利益>子供を産まないことによる利益

となれば子供が増えるはずが、

子供を産み育てることによる利益<子供を産まないことによる利益

となってしまっている、ないしそう認識されているため子供が増えないととらえることができる。

前の項で述べたように、発展途上国は子供をもうけることで得られる利益が無いと生活ができない社会システムとなっているため、子供を産む利益が産まないことによる利益よりも大きい。先進国の場合子供の自立が相対的に遅いため、子供を産むことによる利益は下がり、独身でも生活が成り立つため子供を産まないことによる利益は途上国のそれに比べて大きい。このため、先進国である段階で、どうしても不等号の向きが下の式に近づいてしまう。

他にも損得を上下させる要素はあり、そうした要素が先進国間の出生率の差につながっていると思われる。

宗教などの価値観によって子供を産むことによる利益は上下しうる。基本的に宗教は多産多死の時代に生まれたものであるため、宗教的価値観が強い国では子供を産むのが良いこととされ、出生率が上がる傾向にあるといわれる(一例として、カトリックでは避妊が原則的に禁じられている)。

他に子供を産むことによる利益を上昇させる要因としては子供を産んだ家庭に対する経済支援が考えられる。子供を育てることによる発生するコストを引き下げて相対的に利益を上げる試みと考えた方が良いかもしれない。

コストの面で忘れてはならないのは子供を育てることにより発生するコストは経済コストだけではないということである。今の先進国社会においては男女同権の人権意識が一般的である。そんな中で女性にのみ育児の負担が集中している現状があったらどうか。たとえ経済面での問題が無かったとしても、「育児の負担を男性や社会に分散させることができない」というだけで子供を産むのを止める原因となってしまう。個人的にはこの「労働コスト」に対する認識が不十分であることが日本の少子化が止まらない大きな理由の一つと思う。

待機児童

待機児童問題は労働コストの存在を社会に訴えた例といえる。近年は改善傾向にあるが、それでも0にはなっていない。
(画像引用元:https://www.nippon.com/ja/features/h00289/)

子供を産まないことによる利益は独身・子供を産まない結婚家庭での経済水準が上がれば向上する。少子化白書においても、女性の高学歴化・社会進出が少子化の原因の一つとされている。それまで結婚することが経済面で最良の選択肢だったのが、独身のままという選択肢が増えたのである。

だが難しいのが、独身の経済水準が低すぎると逆に子供を持つ家庭は減るのである。これは、子供を産み育てるという行為が経済的には一種の投資であるがゆえに起こる現象で、分かりやすくいえば「今のままで生活がギリギリなのに、結婚して子供を育てることができるとは思えない」という心理になってしまうのである。日本では特に若者の給与水準が低く、これが晩婚化や未婚化(子供を産み始める年齢が上がるということなので、当然最終的な子供の数は減る)につながっている。

少子化を克服するために

子供の数を増やすという方向性で解決しようと思う場合、今更発展途上国社会に戻るわけにもいかないので、先進国であれば不可避な要素は甘んじて受け入れるとして、他の要素を改善していくという発想に至ると思う。

まず、宗教的価値観の受容は困難であるからこれは無視する。となると、「経済支援」「労力支援」「全体的な経済水準向上と『子供を産む』ことが経済的に最適解となる社会の構築」の3つが打つことのできる手となる。

このうち、「経済支援」と「『子供を産む』ことが経済的に最適解となる社会の構築」はほぼ同義で、つまり補助金を出すということである。ただし、財政面での限界があることと、前述のとおり経済支援だけではだめという理由から、保育サービスや育児と労働の両立が可能な環境の整備といった「労力支援」も必要になってくる。一時期出生率が回復したフランス、現在でも2.0近辺の出生率を保っているスウェーデンでは、経済支援と労力支援の両立を行っている。

少子化海外

フランスやスウェーデンでは、保育所の運営費や児童福祉施設の整備費などの現物給付の割合が高い
(画像引用元:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_1_6.html)

だが、こうした政策が日本において実行され、うまくいっているかと言われれば、皆さんご想像のとおりである。さらに言えば、仮に明日以降の出生率が2.0になったとしても、生まれた子供が大人になるのに20年かかるので、差し迫った問題(特に老人福祉への負担。労働力不足は私的には産業構造のゆがみのためと考える)の解決には至らない。

少子化による弊害の短期的解決を目的とした手段には移民の受け入れがある。

誤解されがちだが、移民を受け入れても少子化は解決しない。少子化とは「子供が少ない」ことであり、移民は子供だけではない、というより普通に受け入れれば過半数が大人となるので移民だけでは子供の割合は増えないのだ。そして、出生率が1.5を切る社会において、「移民ならたくさん子供を産んでくれるだろう」と考えるのはナンセンスである。
それでも移民の方々のおかげで高齢者を支えるだけの労働者人口は当面確保することができるため、それで得た時間で子供を増やす、という根本的解決を行うという流れになる。

日本は移民を受け入れる必要があるだろう。忘れてはならないのは移民も人間という事実である。移民が使い捨ての駒として扱われる事態は人道的にもあってはならないし、政策の面においても、移民の方々にとって来やすい・住みやすい社会構築は必要不可欠である。相当数の移民を受け入れなければ「詰んだ」社会に日本はなってしまうのだから。

参考

内閣府ホームページ

木下富夫「日本における少子化問題と移民受け入れの可能性 : 人口動態と日本経済の近未来を考える」https://repository.musashi.ac.jp/dspace/handle/11149/1806

樽谷弾「国際比較を通して見えてくる日本の少子化対策」https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=8&ved=2ahUKEwjG0e_2ue7nAhWxUN4KHZVWDiMQFjAHegQICxAB&url=https%3A%2F%2Ftoyo.repo.nii.ac.jp%2Findex.php%3Faction%3Dpages_view_main%26active_action%3Drepository_action_common_download%26item_id%3D9971%26item_no%3D1%26attribute_id%3D22%26file_no%3D1%26page_id%3D13%26block_id%3D17&usg=AOvVaw2A3hGt3j6MhP4dNxNDk3ux


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