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youth

通勤途中で見かけた犬が、中学生のとき好きだった菊地くんにそっくりで5度見くらいした。

ああ、菊地くんはシベリアンハスキーに似てたんだな。と、24年も経ってから気づいた。24年て。

菊地くんには中学校を卒業してから一度も会っていない。

私は、彼の顔面がこの世界で一番格好いいと今でも思っている。だから、このまま一生会いたくない。思い出のままがいい。私のなかのパーフェクト。

菊地くんはバスケ部だったけど絵が上手かった。ひょんなことから描画用シャープペンを借りたら、なぜか「よかったらあげます」と言って、私にくれた。

私も絵を描くのが好きだったので、体育祭用のクラスの旗を作るときに、放課後にふたりで残って旗に絵を描いた。菊地くんに手伝ってほしいと頼まれたのだった。

甘酸っぱい。おほほ。

菊地くんは仲良くなってもいつまで経っても私に敬語で、よそよそしいけどそんなところもなんだかいいなと思っていた。

菊地くんのことは、本当は菊地くんではなくあだ名で呼んでいた。

世にも珍しいあだ名なので、万が一のことを考えてここには書けない。

あだ名の由来が彼の人となりを表していて、どこか気の抜けた響きで、それもすごくいいなと思っていた。

顔も性格も、絵が上手なところも、常に口角が上がっているところも、髪の毛が多いところも好きだった。あと、飼っている猫を溺愛しているところもよかった。

でも、告白するでもなくそのまま卒業してそれっきり。卒業後、どこで何をしているのかも知らない。何ひとつ知らない。知らなさすぎる。うける。

菊地くんがくれたシャープペンは、ずっと大事に使っていたのにいつのまにか失くしてしまった。

私は犬が好きだけれど、あらゆる犬種のなかでアラスカンマラミュートとサモエドが一番好きだ。

アラスカンマラミュートは、シベリアンハスキーをもっとむくむくどっしりさせた感じ。

39歳の菊地くんは、アラスカンマラミュートのようになっているだろうか。

お元気ですか、菊地くん。
いまも猫が好きですか。
いまでも絵を描いていますか。

ときどき想像する。
けれど、絶対に会いたくない。

私はずいぶん勝手な人間になってしまった。ぺっぺっ。

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