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圧倒

2016年、
すばる新人賞に応募した『圧倒』は、
初めて書いた小説にして最も長い小説でした。

原稿受領のお知らせをハガキで、手書きで、送ってくださるので、ポストに入っていた時、なんともいえない高揚がありました。

同じミュージャンに恋する
3人の女の子の話を書きました。
推しにリアルに恋をしている状態ですね。

10代の高校生の女の子、
20代のフリーターの女の子、
30代の会社員の女の子、
それぞれステージの上の彼といつか自分こそが絶対結婚するんだと本気で願っているというお話。
それぞれの女の子のエピソードに各100枚ずつ。

結局、みんな色々あるけれど
最も彼に近づけたのは、
2章のフリーターの女の子でした。
彼女は山梨県に移住を試みたものの、
田舎暮らしにまったく慣れず、
壮大な大自然の中にいるにも関わらず死にたくなってしまった時、オフで、いろいろな事情により一人山梨県に来ていた彼にバッタリ遭遇します。

きれいな空気の中でもタバコを吸ってばかりの彼の副流煙による受動喫煙が死因になって今ここで死ねたらと願うも、そんな事叶いっこありません。
そして彼にくっついて、そのままバイトを飛んで、山梨県から逃げ帰ります。

くっついて、といっても彼とは反対方向なので、駅のホームで別れるのだけど、偶然の出会いから駅のホームまでの、たった1、2時間のことが彼女の永遠になってしまうような美しく残酷な言葉を彼から最後投げかけられます。
この言葉を受けてしまったら、 彼がこの世に存在している以上、死ぬに死ねない。彼女はこれからも生きていくしかなくなるのです。

彼の名前には青という漢字が使われており、彼自身、歌声はきれいなものの、性格はまさに青色の冷たさを持っています。
それを知っても気持ちが変わる事などない3人が
想いや行動をこじらせるほどに、
どんどん彼女たちも
様々な意味で青く美しくなっていきます。

こんなに彼を推すばかりに、婚期も逃して彼に人生を台無しにされた! という思いだけは共通のままに彼女らは、待ちに待ったライブの夜が来ると、どのデートへ向かう女の子よりも可愛く幸せになって彼の曲を聴きに向かうのです。