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3LAの新入荷 / 12XU,Bokanovsky他 / インプットよりイマジネーション重要説

私がまだ20歳前後の時、YoutubeもSpotifyはおろかTSUTAYAにもマニアックなパンク/ハードコア/メタルがなくて、音楽を聴きたいと思ったらレコードを買うしかなかった。しかし20歳そこそこのバイトしか収入がないような年代で潤沢な資金などあるはずもない。友人はもう万引きしてでもレコードをゲットするというスタンスで、当然それは法的にも倫理的にもアウトなのだが、そんなアウトな壁を乗り越えてまでレコードを欲しいというあのモチベーションは一体何だったのだろう。知識欲はあった。知識を得るためにパンク天国などの書物を買うのだが、結局のところ掲載されているレアパンク達のほとんどは聞く術はないので、わずかな情報からその音を想像するしかない。最近まで音源を聴くことで得るインプットが重要だと思っていたが、実際には音源をゲットして聴くまでに醸成されたイマジネーションのほうが重要だったのかもしれない、という話を3LA幹部会にて話していた。このバンドはどんな音なんだろう、という想像と実際にレコードをゲットして聴くサウンドとの間にはギャップがあり、当たり外れのあるギャンブルのようなものだ。(新入荷紹介後のテキストに続きます)


Les Grandes Marées / 12XU (LP)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2408

フランスのEMOパンクバンド、12XUの2011年作品が奇跡な再入荷!! ex.Daitroメンバーによって結成されたが、そのサウンドは激情的なものではなく、よりメロディとエモーショナルを強調させたパンク。Screamoな轟音は無いけれど、切り裂くような鋭いジャキジャキのギターサウンドとユーロメロディック感で疾走する。12XU以降、メンバーはBaton Rougeの活動がメインになっていくのだがDaitro〜12XU〜Baton Rougeの一連の流れを見ていくと彼らの音の変遷がよく理解できる。勢いのある若い時代から、自分自身を表現し、そして後には人生観を反映させた音楽を作っていた。EMO全開な楽曲もあるけれど、「Jour De Greve」あたりの要素が後のBaton Rougeに引き継がれていく。


We stumble / Bokanovsky (LP)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2409

バンド名はロシア語っぽいけどフランス、Toulonを拠点に活動していたバンド。2005年の結成、Daitroが注目を浴び欧州激情シーンが盛り上がっていく時期に登場した。メンバーは後にGrand Detourを始動させるメンバーも在籍しているが、この当時はポストロックというより混沌感のあるScreamoを表現している。Daitroメンバーがアートワーク、今や超売れっ子エンジニアとなったComadreのJack Shirleyが録音を担当、Vinylのカラーはゴールド!という気合いの入りよう。killieに通じるハードコアとロックンロールと難解な楽曲展開だけどポップ性もあり、2000年代の試行錯誤の末に生み出された妙な雰囲気がここに凝縮されている。


Visceres E.P. / Veuve SS (12inch)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2410

エクスペリメンタルなフレンチハードコア、12XUメンバー在籍。2012年のLPはもはや国内最終在庫だと思われます。
2000年代の地下Screamoムーブメント以降のフランスのシーンはガレージパンク、ポストパンクへ移行していった印象があるが、なんとその過渡期のようにも感じるVeuve SSの殺伐感はなかなか今の時代では絶滅危惧種かもしれません。エクスペリメンタル/ノイズ要素を注入したパンク。片面シルクスクリーン仕様。


Romance / Abject Object (LP)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2411

Sed Non SatiataやTekkenメンバーも在籍するフレンチパンク、Abject Objectの2013年LP。
2000年代の地下Screamoの時代が終わったフランスは、2010年代は70年代のガレージや初期パンクに回帰していくバンドが多かったと感じていたんですが(その理由は本当にわからない)、Abject Objectもそういったバンドの1つだと思っていました。歪さとポップさの微妙なところをバランス取っていくスタイルは、全体的に極端な方向に向かっていく今の流れから考えると時代に合っていなかったのかなぁと思いますが、そんなのはこのサウンドの時点ではわかりきってることだろということで、そういう精神性のリスナーにはオススメ。


Grey Areas / Moms On Meth (LP)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2413

フランスカオティック、というかパンク。2013年作。
同時期のPunch等にも共鳴するようなファストかつ強烈なハードコアパンクで、そこにはカオティックさもある。youtubeの映像のコメント欄にボーカルは歴史教師してるっていうコメントがあってよかった。良い先生らしい。「history repeats itself」と叫んでいた数年後に実際歴史教えてるって面白い。


(続き)
情報技術は飛躍的に発達し、私たちは音を聴くツールが部屋のオーディオシステムからPCやスマートフォンへと変化する時代を体験することになった。その変化はゆっくりとした移行だった。レコードだけでなく、バンドのライブ映像もどんどんYoutubeにあがるようになって、すこしの疑問があればGoogleやyoutubeに検索ワードを打ち込んで数秒で答えを得られるという素晴らしい時代に突入した。やったぜ、もう外れレコードに大金を払うような罠も回避できる。しかし、その便利さと引き換えに私たちが失ったものがある。もはや「このバンドはどんな音を出すんだろう、どんなライブをするんだろう」という想像力を働かせる機会はどんどん無くなっていった。当たりか外れかのギャンブル、どのレコードに金を使うかというスリル(そんなもんにスリルを感じるなという話だが)も無くなっていった。



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