「私たちは皆、インターネットで出会った。」 Interview with Mildred(ミルドレッド)
USでは既に若い世代で多くのバンドが生まれており、それはもはや旧来とは別のシーンを形作りつつある。そうなれば必然的にその中でも人気を集める者や、独自の路線に進む者、そして圧倒的にアンダーグラウンド思想を突き詰めていく者が現れる。
Mildredは後者にあたる。「俺たちをリリースしてくれ」レーベルを運営していればそんな連絡を受けることは多々あるが、自身のwebサイトを立ち上げ、超膨大なテキストを掲載しているバンドは彼らだけだった。たいていのバンドはSNSやbandcampのURLくらいのものである。そして直感した。彼らには"何か"がある、もしくは超重度の厨二病患者だと。もちろん我々は前者に賭け、日本盤CDをリリースする。このテキストは本国でも未だ超アンダーグラウンド、Mildred(ミルドレッド)への初インタビューとなる。
市民的不服従とオカルト的実践というアナーキーなイデオロギー
Q: ミルドレッドというバンドの成り立ちについて教えてください。どういったメンバーによって構成されている?そもそもソロプロジェクトなのか?何があなたにバンドを結成させたのか。
Mildred: ミルドレッドは、ラインナップや方向性に何年も悩んだ末、2021年にようやく結成された。
私たちは皆、インターネットで出会った。
音楽への愛と盲目的な直感が、私たちを現在のミルドレッドへと導いた。
もともとは、共通の興味と音楽を作りたい願望での集まりに過ぎなかったのだけれど。
Q: ここ数年、ほとんどバンドが発信をSNSでしか行っていない。そんな中で、ミルドレッドは自分たちのwebを持ち、膨大なテキスト量で文章を綴っている。そんなバンドは最近ほとんどみたことがない!
いったいあなたは何を表現しようとしているのか?
Mildred: ミルドレッドは知名度や世間的な評価に興味があるのではなく、私たちの音楽が共鳴し、それを必要とする人々に影響を与えることに興味がある。ミルドレッドを聴いてくれる人たちにインスピレーションを与え、何かをかき立てるために、私たちは私たちの波動が世界に響くことを切に願っている。より良い方向にだ。
ミルドレッドのすべての楽曲と演奏は、私たちが何かを呼び起こそうとする、意識の解放さえも呼び起こそうとする、悪魔祓いであり、魔術的なパフォーマンスでもある。ミルドレッドで表現される物語は、現代世界のためのネオ・ディヴァイン・コメディであり、音楽の曼荼羅、あるいは内省のための鏡である。
私たちのサイトに掲載されている物語は、社会政治的、哲学的、精神的に価値のある作品だ。私たちは現在、市民的不服従とオカルト的実践というアナーキーなイデオロギーを再構築しているところだ。
Q: タイトル「Pt.2」がbandcampにて公開されておりリリースするCDですが、「Pt.1」は存在するのでしょうか?
Mildred: Pt.2は、パンデミック(世界的大流行)の真っ只中で終わりを迎えようとしている世界、臨死体験を含め、多くの死がPt2の制作を取り囲んでいたため、特に"死"についての決意が込められている。
Pt1は、どのように終わりが来るのか、そして私たちがどのように自分自身にそれを行うのかについてである。
『Who's Lila』は、メディアを超越した真の芸術作品となった素晴らしいゲーム
Q: あなたの音楽性、むしろ作家性と言うべきかもしれないが、に対して大きな影響を与えたアーティストについて教えてください。webにも多くのアーティストを羅列していますね。それらに影響を受けながら、最終的にこの音楽性を選んだ理由を教えてください。
Mildred: 私たちは特定のスタイルを選択したとは思っていないし、だからこそ『Pt.2』は複数のジャンルにまたがっているように見えるのだろう。ジャンルの一部だからといって、ジャンルの慣習に従わなければならないのは馬鹿げていると思う。曲の求めるもの、現実に忠実で、感情的な反応を引き出せると思うものをやるだけなんだ。
私たちのサウンドは、音楽で聴いたアーティスト、本で読んだアーティスト、ビデオゲームで体験したアーティスト、人生の一瞬を過ごすシンプルなアート、夢で感じたアーティスト、映画で観たアーティストのすべてが融合したものだ。本当に良い芸術を作るには、ただ本物であればいい。
音楽的には、フォークナーやバースデイ・パーティーからマッカーシーやバンバラまで、南部ゴシックの文学や音楽にとても影響を受けている。サイケデリック・ロックにも影響を受けている。自分たちはギターとギターにできることを崇拝するバンドだと思っている。カルガリーのWomenやPalmのようなサウンドから、Blind Girlsのようなモダン・スクラムス(skramz)まで。
特に新曲では、ジーザス・リザードやHTRKのような音楽に影響を受けている。また、They Are Gutting A Body Of Water、Her New Knife、Knifeplayなど、フィラデルフィアの新興シューゲイザー・シーンにも深くインスパイアされている。
素晴らしい音楽がたくさん生まれているので、私たちが影響を受けたものをすべて表現するのは不可能だと思う。文学、映画、ビデオゲームに関しては、私たちは間違いなく実存的で超現実的なものを好む。『Who's Lila』は、メディアを超越した真の芸術作品となった素晴らしいゲームで、今度の新曲の中心人物の一人の名前にもなっている。
友人を養うためにバンドキャンプを使った出会い系詐欺で月600ドルを稼ぐ
Q: ミルドレッドという名前は、あなたが友人たちを養うための資金を得るために行った出会い系詐欺によるもので、プロフィールの女の子につけた偽名がミルドレッドだった、という話についてもっと聞かせてください。あなたたちは、資金面においてかなり切羽詰まった状況だったのでしょうか?
日本に住んでいると、USは金持ちが多いっていう印象だから。
Mildred: 「シュレディンガー」「イワン・アブセンティア」… あなたが私を何と呼ぼうとも、当時の私はホームレスで、何人かの友人たちと壁に大きな穴の開いた理想的とは言えないリハーサル・スペースに不法占拠していた。
私たちは飢えていたし、私はこのときすでに、人生のかなりの部分を貧困にあえぎ、慢性的な病気にかかっていた。私は自暴自棄と飢えからアイデアを思いつき、その「ミルドレッド」という架空の女性をデートに誘えるかもしれない可能性があると"思わせぶり"を演出し、デモテープをバンドキャンプでname your priceで売った。それはかなりうまくいき、月に600米ドルを稼ぐことができた。
だから、私は間違いなく人生で悪い状態にあったと言える。『ミルドレッド』という曲の歌詞を書いていたとき、私はその真っ只中にいて、昏睡状態の恋人役の名前を探していた。 救いを求めて自分を見失うようなものが欲しかった。それがミルドレッドという名前だと気づいた。
不条理な世界の不条理......そう言って、バンドのアイデンティティ全体が生まれたんだ。私は運命論者のようなものだから、すべてが運命だったのだと思う。
アメリカにはお金持ちがたくさんいる。貧乏人も多いし、実際、パンデミック後は貧富の差が激しくなった。アメリカ全土がそうだというわけではないが、少なくとも私たちの本拠地であるロサンゼルスでは難しい状況だった。アメリカには、フィラデルフィアのケンジントン・アヴェニューやロサンゼルスのスキッド・ロウのように、私たちのシステムの失敗を浮き彫りにするものがある。こうした形成的な出来事や状況が、ミルドレッドの結成につながった。
「私たちは驚異的なスピードで未来を奪われている」
Q: つまりこの作品の背景には、「愛」とか「永遠」とかっていうテーマもありながら、現実世界での切迫した感情が多く含まれていると思うのです。これらは日本の若者が感じている閉塞感ともリンクすると思っています。そういった音楽性は、シューゲイズやスロウコア、Screamoといった音楽との相性がいいと思いませんか?
Mildred : 確かに!日本の若者だけに限ったことではないが、世界全体から見れば、私たち若い世代は驚異的なスピードで未来を奪われているように感じる。ミルドレッドは若者の若者による若者のためのものだ。これらのジャンルはすべて、若者が持っている憂鬱/悲しみ/世界に対する怒りといった、さまざまな感情を包み込んでいると、私たちは間違いなく感じている。
Q: こういった物語性のある音楽をプログレッシブなメタルバンド等、例えばDream Theatreの『Metroporis Pt.2』などが有名だが、アルバム1枚の時間をかけて壮大に描いていく手法がある。メタルバンド等の表現は整然としたものがあるが、Mildredの物語はもっと感覚的なもののような気がしている。村上春樹好きですか?
Mildred: そうだね!『スプートニクの恋人』しか読んでないけど、気に入った。もっと村上春樹を読まなくては。
私たちのコンセプトは、より目的的で感傷的なものだと思う。コンセプト全体のアイデアは、当時私が感じていた破滅のようなものについての『Plunge』となる詩から生まれた。
そしてそのアイデアは、未来に何か比喩的な墓碑銘を残すことだった。私たちがいかにして互いに不幸な状況に陥り、それを引き起こしているかを警告すること。
< bandcamp >
https://longlegslongarms.bandcamp.com/album/pt-2-deluxe-edition
< Mildred - "Pt.2 Deluxe Edition" CD 予約はこちら >
https://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2889
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