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「ハードコア、特にマサチューセッツのパンクとハードコアの血統に対する尊敬の念は間違いなくある」 Interview with CERCE

(>>>> English version is here)

マサチューセッツ州ボストンのハードコア・バンド、Cerceが、2011年から2013年までの作品を収録したディスコグラフィーLPを自身のレーベル、Kerk Recordsからリリースしました。今回のインタビューはBeccaとPatrickが回答してくれています。

今回のLP化のきっかけは何だったのでしょうか?以前カセットでのリリースがありましたが、それとはマスターが違いますか?

Becca: 自分たちが新しい音楽とか次の段階に移る前に、これまでの人生の記録としてまとめておきたかったんだ。そして、質問の回答はYESで、今回のリリースではマスターも新しいものになってる。

Patrick:  元々のカセットはPlanned Parenthoodへの寄付金を募るためのチャリティー・リリースであり、最初にリリースした時には見逃してしまったかもしれない人たちに届けるための方法という側面もあります。ディスコグラフィーLPは親しい友人、真のサポーター、そして音楽を良い音で楽しみたい人のためのものです。ミックスとマスターはこのリリースだけのために新しく作り直してます。このキュートなピンクのレコード以外では、これらの楽曲が表現されている内容を聴くことはできない。エンジニアのZachはこの音楽を時代を超えたサウンドにするために信じられないような仕事をしてくれた。そしてこれまで一緒にサウンドを作り上げてくれたZach Weeks、Mike Moschetto、Ryan Stack、Alex Garcia-Riveraに改めて感謝を述べたい!

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2000年代〜2010年初頭くらいまでのレコードって歴史に埋もれがちだと僕は考えていて、今のタイミングでリイシューされるのはとても嬉しいです。

Patrick: 確かに。実はレトロなカセット・ゲームにはまっていて、古い音楽や友人が作った音楽をたくさん集めているんだけど、60年代や70年代の見落とされていたレコードの多くが、2000年以降はテープやCDでリイシューされたことに気付いたんだ。俺はまだCDも好きだよ!いつも古いCDを買っているから、どんな媒体でも良い音楽を復刻し続けてくれていることに感謝しているよ。

Becca: ありがとう。ノスタルジックなレコードがカムバックしているけれど、(ノスタルジックではない)Cerceの音楽もこうして復活してるのは嬉しく思う。

Kerk Recordsは自主レーベルなのですか?このLPのために設立されたレーベルなんでしょうか?

Patrick: 100%インディペンデントなレーベルです。レーベルの本部はガレージにある折りたたみ式のテーブルで、僕のドラムセットの隣にあり、Beccaのオフィスはラップトップが入った枕の砦だと思う。今現在、Kerk RecordsはCerceのアウトプットと継続的なレコーディング活動のためだけのレーベルなんだ。カウボーイミュージックだ。

Becca: このLPのために特別にレーベルを立ち上げたのは間違いないんだけど、将来のことは全くわからないんだ。どちらにしても楽しんでいるよ。Cerceの未来がこんな風になるとは思ってもみなかった。

「ハードコア、特にマサチューセッツのパンクとハードコアの血統に対する尊敬の念は間違いなくある」

Cerceはエモバイオレンスなサウンドだったと思う。だけどScreamo/Skramz的だったり、グラインドコアだったり、神秘的な雰囲気を醸し出す曲もあります。当時はどういったサウンドに影響をうけて楽曲を作っていたのでしょうか?

Becca:  私はニューヨークのロングアイランド出身ですが、Glassjawには自分でも気がついている以上に影響を受けていると思います。また、『Interview with the Vampire』のKirsten Dunstの演技にも影響を受けました。 あの映画での彼女の叫び声がいかに女性的でありながら、絶対的に恐ろしいものであったことが凄いと思った。年齢や性別は問題じゃないんだなと。

Patrick:  Emo-Violenceという呼び方については面白いね。私たちはかなり感情的で、以前はステージ上ではとても暴力的だったので、それがピッタリだと思います。僕は冗談で「Cerceは親たちがScreamoと呼ぶものだ」と言っているんだけど、僕らは親たちが嫌がる怒鳴り声のある音楽カテゴリーにあてはまると思う。まぁどちらかというと、音楽ジャンル的にはポップ・バンドに近いと思います。実験的なハードロックのようなものかもしれないね。

我々は自分たちの音楽についてのジャンルをどういう風に語るかとかそういうことには興味がないんだ。ジャンルというのは、評論家やレーベルがセールスポイントとして作ったものがほとんどだし。ジャンルやサブジャンルが存在することは理解しているが、音楽を分類する際にはかなりシンプルなものにしたいと思っている。シンプルにするために俺たちは自分たちの音楽をパンクロックやハードコアパンクと呼んでいるんだ。Cerceのメンバーのほとんどはパンクとハードコア音楽とのつながりを持っている。ハードコア、特にマサチューセッツのパンクとハードコアの血統に対する尊敬の念は間違いなくある。

2011-2013年頃はPrince、Trash Talk、J Dilla、Erykah Badu、Operation Ivy、Fifteen、Little Dragon、Ornette Coleman、John Coltrane、Miles Davis、Lil B、Max Roachを聴いていて、Pussy Riotの作品を追っていました。ZachはTotalitär、Cursed、Rainbow of Death、Modern Life is War、Dropdeadを聴いていました。ZacはGlassjaw、The Dillinger Escape Plan、Stanley Kubrick監督のThe Shiningのサウンドトラック、Touché Amoré、Led Zeppelinを聴いていた。Timは元々、Ruiner、Spitboy、Black Breath、Limp Wrist、Cloud Rat、Siege、Fucked Up、Go It Aloneにハマっていました。Cerceの結成時にほぼ全体的に共有されていたか、話題になったグループの影響は、Glassjaw、Rape Revenge、American Nightmare、Congenital Death、Converge、Black Flag、The Misfits、The Clash、The Shaggs、Bikini Kill、Blondie、Lou Reed、Some Girls、Wendy Carlos、Vaccine、Bad Brains、The Ramones、Darkthrone、Pissed Jeans、Led Zeppelin、The Runaways、Naked City、Liturgy、Tile、Rancid、Ceremony、Punch、Last Lights、Mountain Man、Touché Amoré、きゃりーぱみゅぱみゅ、Cursedなど。

僕たちはみんな18歳、19歳、20歳だったから、その頃は音楽の発見に満ちていたし、自分たちが育った音楽への感謝の気持ちも強まっていた。2019年から2020年頃のニューアルバム制作の頃、ZachはGFOTY、Sophie、Caroline Polachek、パソコン音楽クラブ、そしてBruce Springsteenを聴いていました。ZacはCharles Mingus、Nine Inch Nails、Queens of The Stone Age、Limp Bizkit、Rage Against The Machine、clipping.、JPEGMafia、Deftones、AC/DC、Tool、The Jesus Lizard、Shellacを聴いていた。
TimはHarold Budd、Billy Bang,、Meredith Monk、Julius Eastman、Don Cherry、山根星子、HTRK、Gloria Jonesを聴いていた。そういやZachはDropdeadの最新アルバムにも取り組んでいたし、彼らの古い曲のリミックスもしていたので、ある程度影響を受けていると思う。

僕はもうヘヴィミュージックをあまり聴かなくなってしまったけど、新しい曲を作っている時は、David Silveria、Wuv、Joey Jordison、Eloy CasagrandeのSepulturaでの演奏や、Milford Graves、Kahil El'Zabar、Sunny Murrayのようなアーティストからの影響を受けたことを思い出していたよ。もちろんプリンスもそこにいたんだけど...、そう、自分はいつも「プリンスならどんなドラムを欲しがるだろう?」って自分に問いかけるようにしているんだよね。

「みんな若くて、利己的で、コミュニケーション能力が完全に欠如していた」

バンドは解散したのかと思っていた。でも公式に解散していないと宣言していますよね?このあたりの経緯を聞きたいと思っているのですが、話にくい話題ですか?

Becca: 私たちは2013年に解散したんだけど、なぜか途中でお互いをとても恋しく思っていることに気付きました。話をするのは難しいかもしれません。それは別れた後になぜか数年後に再び話し始める恋愛関係に似ています。ある意味では、私たちは自分たちが過去に置いてきた自身を取り戻したとも言えるし、自分たちが解散した後に経験してきたことや自分たちがどのように成長したかをお互いに伝えたりし合えるのがとても楽しくなっていたんだよね。

Patrick: 2018年に再び演奏した後、僕らは一緒にいることがとても楽しかったし、この音楽を楽しんでいることに気付いたんだ。だからこれを自分たちのペースでもっと続けていきたいんだよ。決して話すのは難しいことではないが、当時の僕らの性格を物語っているような恥ずかしいことかもしれない。みんな若くて、利己的で、コミュニケーション能力が完全に欠如していたんだ。2013年の解散のときも、しっかり話し合って喧嘩をして、そして最後のハグで簡単に解決できたことだったんだと思う。今ではみんなお互いにハグしたりキスしたりするのが好きだから、それはそれで良いかもしれない。

「バンドの中で唯一の女性である私を、皆が『お客様』みたいな感じで扱っているように感じてた」

フェミニズムについて。Cerceの活動時期と現代とでは状況は変わってきたように思えます。特に2010年代後半からはポリティカルコネクトネスがカルチャー面でも大きく取り上げられるようになってきたと思う。自分たちが表現していた怒りなどについて、状況は改善されてきたと思う?

Patrick: 物事は変わったところもあるけれど、何も変わっていないようなもの。これについてはベッカに話を譲るよ...

Becca: いくつかの点では変わったかもしれないけど、ほとんど物事が変わったとは感じていません。私は個人的には、自分の扱われ方をハッキリさせようとしていたんだなと感じてます。私は自分の周りで何が起こっていたかを完全に処理するのに十分に成熟していませんでしたし、人々は私の視点を聞きたくないように感じていました。今では、人々はより多くのことを聞き入れるようになっているとは思うけれど、自身の偏見を変えるほどではないかな。バンドの中で唯一の女性である私を、これは個人的に感じていたことなんだけど、バンド全体としてじゃなくて皆が私を「お客様」みたいな感じで扱っているように感じてた。それも私が一番悪いのかもしれなくて、なぜなら私は人見知りで閉鎖的だったから。

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「Cerceがバンドを続けていくということに、今は感謝してる。」

たくさんの回答をありがとうございます。あなたは私の質問に対して、たくさんの影響を与えたアーティストの名前をあげてくれました。その中にはパンクに近いアーティストも入れば、パンクとは遠くにいるアーティストもいます。ところできゃりーぱみゅぱみゅが一体Cerceにどんな影響を与えたっていうんです?

Patrick: その間に聴いていた音楽については、無茶苦茶に徹底していたし、可能な限り真実を伝えようとしていたんだ。僕たちの好みがどれだけ違うかを示すために、みんなの個別の意見を聞くことも僕にとってはとても重要だったんだ。音楽的には全てのことに同意しているわけではないし、それが良い音楽を作るものだと思うんだ。きゃりーのキュートさや可愛さへのこだわりは、とてもホンモノだ。俺たちはバンドとしての可愛さを絶対に大切にしているんだ。2012年頃にみんなで彼女の曲を聴いて、その演出に感動したとんだと思う。きゃりーぱみゅぱみゅというよりも、中田ヤスタカの音楽が好きなんだと思います。『ぱみゅぱみゅレボリューション』は本当に楽しいアルバムだと思います。

Becca: 2012年にZach Weeksと一緒に暮らしていた頃は、きゃりーぱみゅぱみゅをよく聴いていました。曲を書いているときは、パンクミュージックをめちゃくちゃ聴いていたのは嘘じゃないんだけど。それまでは逆のことをして過ごしていたので、超フェミニンな感じの音楽をたくさん聴いていたんだと思います。

アルバムをLPが到着するまでbandcampでDLしたトラックを聴いていたら最後に急にポップな歌が流れてきて再生するファイルを間違えたのかと思いました。これはParamoreのカバーだそうですが、このバンドをチョイスした理由はなんでしょうか?そもそもこのカバーは一体?

Becca: これはZachの学校のプロジェクトで使われたものだ。その中でオリジナルの制作スタイルを真似しなければならなかったと思うので、Patrickと私はParamoreのドラムとボーカルを真似するように頼まれました。

Patrick: ダウンロード版にはノイズトラックとParamoreのカバーがボーナスで収録されていると思います。最初のノイズのトラックは、前のアルバム録音中やスタジオで遊んでいるテイクからのフィードバックのスクラップを集めたもので、もう一つのトラックは国をまたいだプロジェクトで、とても楽しかったんだ。夏の間、みんな住んでいるところは離れていたんだけど、カセットのコンピレーションのためにオリジナルの曲を提供して欲しいと頼まれたので、様々な即興の活動をコラージュして録音することにしたんだ。
僕はイリノイ州シカゴ近郊の予備校で音楽を教えていたから、ドラムセットがある学校のパフォーマンスホールに行って、GarageBandを起動して街に繰り出したりしていたんだ。ZacとTimは彼らがいたところからギターの音を提供してくれた。Zachはかなり不吉なベースのループを録音して、フィードバックやギターを提供してくれたし、全体のコンパイルとエンジニアリングもしてくれた。Beccaは弟と一緒にパティケーキを弾いたり、童謡を歌ったりしていて、それはボイスメモとして送られてきた。

Beccaが言ったように、Pramoreのカバーは、人気のある曲をスタジオでゼロから完全に再構築するためにザックが取り組んでいたエンジニアリングプロジェクトだった。BeccaはPramoreが好きなんだよ。Hayley Williamsは良い声を持っているし、Beccaも良い声を持っている...その録音した曲が存在するんだから今回のデジタルリリースに含めようと思ったわけ。

LPをリイシューすることによってバンドの周りには何か変化が訪れたりしていますか?

Becca: おかしいのは、これらの質問に答えるとき、私たちは当時、お互いの人生にどれだけ費やしていたんだろうと考えてしまうことなんだよ。一緒に住んでいたり、学校のプロジェクトを一緒にやっていたり。LPをリイシューしたこと自体では変化はありませんが、しかし今はみんなが別々のライフスタイルで暮らしている。今は5人とも別々の州に住んでいて、グループチャットや電話などを使って物事を進めるようになったんだよね。

Cerceのこれからの予定があれば教えてください。
僕はこのインタビューを読んで、Cerceを知らなかった人が聴いてくれるきっかけになれば嬉しいと思うんだ。歴史に埋もれるにはもったいないほどの良いバンドだから。

Becca: ありがとうございます。私が生きている間はCerceは無名のままでいて欲しい。自分が死んだ後には評価されているかもしれないと思っていました。それはともかく、今は新しい音楽に取り組んでいます。
最近、バンドメンバーにコメントしたんだけど "悪いニュースは、私には病むようなことがたくさんあること。良いニュースは、将来の歌詞のために書くことがたくさんあること"。つまりCerceがバンドを続けていくということに、今は感謝してる。

Patrick: カウボーイミュージック。

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Text by Akihito Mizutani (3LA -LongLegsLongArms Records-)
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(2022/12/5 追記)
2022年には新しいレコードもリリースされました!

Cowboy Music / Cerce (LP: Pink Ltd500)


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Cerce
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