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Interview: YU.K.〜GUEVNNA映像制作の背景と「アートが実験的であること」の重要性

 GUEVNNAのアートワークを担当したAnüstesがバンドの視覚的な表現を担っているとしたら、YU.K.(ユク)は映像で楽曲に新たな解釈をもたらしている。リリースに先駆けて公開された「Behind The Sun」のアニメーションMVは楽曲に新たな命を吹き込んだ。このインタビューはGUEVNNAの通してアーティストYU.K. に迫るものである。そこに共通するキーワードは、「実験的であること」

(Profile)
韓国釜山で生まれ、ドイツ、ブラウンシュヴァイク芸術大学(Freie Kunst)自由美術科卒、設置、映像、パフォーマンスなど様々なミディアムを通じて作品世界を具現している。短編映画「Prayer to our Father」で2019年ヨーロピアンメディアフェスティバルのコンペティション部門ノミネート、2019年ソウル実験映画祭(EXiS)のJungwoon Award受賞。2018から東京で滞在中。書籍輸入業での経済活動をするのと同時に作品制作も続けている。
contact: YU.K.(yu.k.vicon@gmail.com)

「Behind the Sunの製作には墨イラストを約2000枚を使った」

Q: "Behind The Sun"の映像が届いて衝撃的でした。この制作はすべて手書きですよね?一体どれくらいの紙を使用したのでしょう。
 また、今回GUEVNNAのMVを担当することになったきっかけを教えてください。そもそもGUEVNNAとの出会いはどのようなものだったのでしょうか?

YU.K: 楽しんでいただきましてありがとうございます。Behind the Sunの製作には墨イラストを約2000枚使いました。アニメ作品は不慣れで試行錯誤からの試し書きも多かったので、作中ではもう少し少ないと思います。 
 GUEVNNAのライブを初めて観たのは4年前のソウルツアーのときです。 ライブの後で一緒にチーズタッカルビで食事をした思い出があります。

Q: GUEVNNAのライブに行ったということは元々GUEVNNAのようなロックというかメタルというか、そういった音楽に馴染みがあったんでしょうか?

YU.K:  ロックは全般的に昔からとても好きでした。A Perfect CircleやMariyln Mansonのようなハードロックバンド、 THE CUREのようなニューウェーブもよく聴いていましたが、ドイツへ長期に留学していたのでテクノにも触れる機会が多くありました。友人にZyanoseのアルバムをプレゼントしてもらったことで日本のハードコアを聴くきっかけもありました。ここ何年かはMelt-bananaが大好きです。
 GUEVNNAのファーストアルバムはある種のメタル要素が強くありますが、そのほかにもかなり多様なジャンルが含まれていると感じていました。その実験性がとても気に入っています。

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Q: GUEVNNAはアートワークのときもAnustesさんには曲タイトルだけ伝えて音を聴かせなかったりして、その作家のその人自身の作家性を作品に反映して欲しいというタイプの人たちなのですが、YU.K.さんの映像に対しても、特にこうしてくれという注文はなく、という感じだと思うのですが、YU.K.さんのこの曲への第一印象を教えてください。

YU.K: MV制作のオファーがあった時、頭の中でイメージが自然に浮び上がる曲がいいだろうという、それなりの基準がありました。 ライブドキュメンタリーが合いそうな曲もあれば、起承転結のある物語スタイルの映像がマッチする曲もありました。 「Behind the Sun」を聴いた瞬間には歌詞の雰囲気と独特な曲調に、この曲で短編アニメーションを制作するべきだと強く感じました。 今考えてみると曲尺が6分もあり冒険でしたが。 この時はまだアニメ制作の全体が見えていなかったので稚気な決断だったと思います。 
 Anüstesさんのジャケット制作作業に、 そんな面白いビハインドがあるとは 知りませんでした。 世界観豊かで独創的な作家さんだからこそ興味が倍増するサイドプロジェクトですね。

「会話を続けられる芸術的な力を求めて道を探し続けるしかない」

Q: YU.K.さんのプロフィールについて教えてください。アートや絵画を体系的に学ぶ機会はありましたか? YU.K.さんがメインで制作しているのは映像というより絵のほうですか?これまで映像を作ったことはありますか?

YU.K. : 私は大学時代に現代美術を専攻していて主に短編映画や行為芸術を中心に作品発表をしていました。
 もちろん絵も描きますが外部に発表しない個人的な作品に過ぎなかったです。 高校時代はキャラクターを歩かせるなどのアニメの基礎を学んだことはありました。アニメには絵を動かすだけではなく様々な専門知識が必要ということをその時に感じることになりました。ハマるときりがない深い世界だと思います。

Q: 自分の人生の中で特に影響を受けた映像作品というものがあれば教えてください。もしその中にアニメーションの作品がなければ、あえてアニメーションに限るならどんな作品を挙げるかも教えて欲しいです。

YU.K. : 普段、映像や映画にこだわるというよりは、色々な刺激を受けるために幅広く作品を楽しんでいます。
 ナム・ジュン・パイク(白南準)とダグラス·ゴードンを特に尊敬しています。スクリーンの中の世界と外の世界で現実が揺れ動くような作品を制作する作家です。アニメーション作品の場合、主にハンス・リヒター、レン・ライに代表される1920年代の実験アニメ作品が好きです。
 具体的で直線的な表現が多い世界で彼らのような実験的な作品に触れると、より自分自身を作品の中に表すことができると感じられます。それは彼らと私の表現方法の線上から、ある良い地点まで自然と距離を縮めてくれるのです。

Q: このあたりの作品を僕もよく知っていなかったので今回改めてみてみました。いくつかyoutubeにもアップされていたのでそれらをチェックしていたら、GUEVNNAのMVに通じるようなところもあるかもしれないと思いました。
 「実験的」というキーワードがこれまでも出てきましたが、これは実験的であることが重要だということでしょうか?「実験的」という言葉自体、少し定義が人によって曖昧なものかもしれませんが、YU.Kさんにとって実験的であるということは共振するものがあるということになりますか?
 たとえば僕にとっての「実験的」っていうのは世間ではまだ評価の定まっていない、いわば前人未到の領域や組み合わせに挑戦することなのかなとも考えます。

YU.K. : 私にとって「実験的」は「非論理」かもしれません。未知の領域に挑戦するという行為は論理的な展開から離れて行くということだと思います。頭のシナプスに不快感を与えて、そして意識の流れがスローダウンされると物事の概念を見直すようになり、そこから生まれる感想は世界を広げる力があると思います。ですが、一方的なおしゃべりでは何も生まれないでしょう。オーディエンスは疲労感を感じたら作家が思うよりももっと早くすぐ逃げてしまうものです。会話を続けられる芸術的な力を求めて道を探し続けるしかないです。もちろん聴衆の数に全くこだわらない作家さんもいるのですが私は比較的に寂しがりタイプの作家かもしれません。
 アニメは初制作でしたが、表現の自由さが無限で豊かな一方で、craftという芸術の原初的な面にも充実した、とっても意味が深いメディウムだと思いました。
 次作もアニメに挑戦しようと考えています。またボロボロになって参ります。

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「価値観が違う全ての人を満足させようという態度はアーティストとして正しくない」

Q: YU.K.さんが、GUEVNNAのアートワークというプロジェクト単位ではなく、作家として活動していく中でのアートそのものとしての全体的なテーマみたいなものはあるのでしょうか?

YU.K. : 主に個人と社会の関係性についてさまざまなキーワードで追跡しています。 最近、映画祭で上映された作品は、西欧宗教と韓国伝統社会の関係などがテーマで、やや巨視的な内容です。 今作でもそのテーマは変わりませんが、ドライな接近よりはもっと感情移入した感じです。まるで修行をするように同じイメージをずっと繰り返して描いていたら、外側よりは自分の内面にハマる経験をしました。それで私が求めていた純粋さ、楽しさのシンボルである弱くて素朴な小さいカエルの霊を登場させることにしました。最初の構想では逃げ場なんかないようなかなり暗い内容だったのですが、ただの観察者であった鳥の群れをもっと積極的に行動するようにさせてカエルを助け、「私の手」に入るように結末も変化していきました。自由気ままに世界の運命を決めた感じですね。

Q: アニメーションやるならアニメーションならではの表現というのが必要だと思うし、そうでなければやる意味がないなと思います。しかも今回だと手書きだからこその感覚ってあると思いました。
 テーマ的には"輪廻"みたなものも感じましたし、だけれどそれをはっきりと言葉で示すというよりは、映像で意識の面に訴えかけるという点においては、GUEVNNAが歌詞を掲載しないで音だけで表現しようとしていることと似ているのかなと。
 なにが言いたいかというと、受け手の想像力、感性に最後はゆだねるという信頼関係だと思うんです。最近の音楽って何が言いたいのか明確でないといけない、理解されない、みたいな風潮がありますが、抽象的であるが故に染み込むものが面白いと思う。

YU.K. :  ジャンルに関わらず大きなトピックですよね。 やはり表現者は他者に迷わせてしまう恐れではなく感動を与えたいという本能があるので、抽象的な作品を作る側こそとても怖い過程を持っていると思います。  一方で理解できなかったら失敗と言われていますが、価値観が違う全ての人を満足させようという態度はアーティストとして正しくないと私は思っていて、迷うたびに自問自答します。 わがままな表現者たちが思う存分作ったものが他人の解釈と衝突する時に面白い何かが生まれるのではないでしょうか。なるほど「信頼関係」からできるものなんですね。とても考えさせられますね。

先ほどMV制作においてGUEVNNAから特別な注文があったのかと聞かれましたがGUEVNNAから私に与えられた注文は「好きに作ってください」でした。 すごくフリーな作業環境をくださったのでとても感謝しています。

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Text by Akihito Mizutani (3LA -LongLegsLongArms Records-)
>> GUEVNNA『Burning Skyline』特設URLはこちら

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