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掬う過去

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嫌な記憶は現実に侵食する

人は皆そうだと思うが、嫌な記憶とは簡単には忘れない。ふとしたときに、その時の感情が胸に広がって、過ぎたことへの怒りや悲しみに支配される。 それがまたぶつける場所もないものだから困る。 私は傷を伴う情景を忘れられない。 想い人と行ったイラストレーターの展示会。 そこでたまたま出会った彼の友人に、彼は私を友人だと紹介した。私は愚かにもその時初めて自分の立場を理解した。彼が私とは手を繋がない理由も、あまり外へは遊びに行かない理由も、その時初めて理解したのだ。 前夜、彼はベッ

私という人間が出来るまでのお話

私は中小企業の社長の父親と美人な母親のもとに生まれた。 田舎町の裕福な家庭。 その内実は、父親と母親は籍を入れていない事実婚状態だった。二人はもともと不倫関係だった。父親は母親と過ごした7年間のうちのほとんどを前妻と離婚をしきれずにいたそうだ。その前妻と離婚した後もなぜか籍は入れなかった。少し前に聞いた時、母親は「私は意地を張っていたの。離婚した後、彼は何も言わなかったから。私からは言いたくなかった。」と言った。 だからだろうか、私は父親を当時パパとは呼んでいなかった。