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大暴露

今日、知らない番号から電話がかかってきた。

基本的には知らない電話は取らないが、引っ越し直後で色々なサービスをお願いしたりしているし、電話に出てみた。

すると、どうやら、先日申請を受理してもらったOCIの申請内容の検証についての連絡だった。今日、家まで来て、確認をすると言う。(部屋までは来なくていいとの事なので、下のマーケットで待ち合わせした。)

この係員は私の今の住所を知らなかったらしく、住所を聞かれた。

確かに、最初に申請をした時は、引っ越し前であった。

既に引っ越しすることが具体的な計画であったので、手続きの途中で引っ越しをしたらどうすればいいのかをFRROのオフィスに行った時に職員に聞いたら、「外国人なんだから、引っ越しも当然あると思う。連絡が来た時に、新しい住所を伝えて、来てもらえばよい。」と言われた。

その時は申請は受理されず、その直後に、引っ越しをした。

2回目の申請手続きの時は、前の部屋と新しい部屋の両方の契約書を持って行った。「引っ越ししたんです」と新しい契約書を申請書に添付しているはずなのだが、今日家までやって来たこの係員は「申請は前の住所でされているから、申請内容としては正しくない。OCIの発行を許可できない。」と言う。

え、なんですと・・・・?

ショックを受けつつも、とりあえず落ち着こうと、要求された書類を提示することに注意を向ける。パスポート、PIO、結婚証明書、部屋の契約書。

さらに、またも夫と電話で話す必要があると言う。

手続きだからしょうがない。私はいやいやながら夫に電話をかけた。

インドとアメリカに時差があるから電話に出るかどうかは五分五分であったが、幸いすぐに電話に出てくれた。そこで、この係員に電話を代わる。

この係員は英語はそこまで上手ではなく、ヒンディー語まじりなので、何を話しているかすべては分からず、しかも、電話で話しながら私から離れていくので、よく聞こえない。しかし、どうやら新しい住所を夫に暴露してしまっているようだ。

「いや~最初はXXっていう住所に行ったんだけど、いなかったからここまで来たんだよね。遠かったな。え?ここXXって言うソサエティだけど?」

私は青ざめた。こいつ・・・・!ばらしおったな・・・!!

悔しさに震えるも、遠目に係員を凝視するしか私にはできない。

せっかく今まで隠し通してきたのに・・・・。

その後、この係員に代わって電話に出た私の声は震えていたかもしれない。夫になんて言われるか分かったものではない。

しかし、意外にも落ち着いた声の夫は、適当に理由をつけて引っ越しにも驚いた様子を見せずに押し通してくれたようだ。(感謝)しかし、「この係員に1万ルピー払っておいて」と続けて言われ、私は再びフリーズした。

は?今なんと?

係員によると、申請の住所は前の住所になっていて、今の住所とは異なる。検証した結果としてこれを本来認めることはできないのだが、1万ルピー払えばそこを許容して、問題なくOCIが発行できるようにしてくれるのだそうだ。

コイツ、私の住所を夫にばらした上に、お金までむしり取るのか・・・!!

私は悩んだ。

そもそもコイツの言う事は怪しいし、お金をあげても申請を通してくれるかどうか確証は持てない。

しかし、お金を渡さなかったことにより、OCIが発行されなければ、私も後悔するだろう。

どうしよう・・・・

時間稼ぎの為に、とりあえずコピー屋さんに向かった。コピー機が「が~。。。」という音を立てて書類をコピーしている間、どうしようかめまぐるしく考えが巡る。

コイツにお金渡す?
でも1万だよ?
そうだけど、OCIが発行されなかったら今までの苦労も全部水の泡じゃない?
う~ん・・だけど、必要な書類はそろっているのに、悔しい!!

私は一人で頭の中で会話を続けたが、結論は出ないまま、コピーの終わった書類をこの係員に渡した。子供はいるのか?いくつか?という質問をされて、答える。必要な書類は全部渡したし、夫にも電話で確認を取ったので、手続きとしては完了のはずだ。しかし、コイツはいつまでも帰る様子を見せない。

私は私で、「お金ちょうだい」と言われるのを待っていた。まるでそういわれたらそれに従うのを待っているかのように。

少しして「旦那さんに何か言われなかった?」と聞くので、「お金の事?」と聞くと、肯定も否定もしなかった。

コイツ、慣れてるな。いつもやっているに違いない。

「お金払わないとダメなの?必要な書類は全部提示しているし、夫にも確認取ったでしょ?」と言うと、「この後、4~6週間でOCIが発行される」と答え、肝心のお金の部分には言及しない。もう一歩踏み込んで聞いてみると、「いや、そちらがお金あげたいなら、別にもらってもいいけど」といった「私がお金をあげたがっている」という言い方。殴りたい。

な・ん・で、私がお前にお金をあげたいんだよ・・・!!

しかし、はっきり言って私に選択権はない。OCIが発行されなくて困るのは私だし、「あの時こうしておけば」は避けたい。本当に悔しいのは、OCIが発行されなくて困るのは私だけだ。他の人間はだれ一人困らない。この係員のガソリン代や夫の書類作成代などは確かに損であるが、本当に困るのは他は誰もいない。

私は悔しさを押し殺してATMに向かった。

その短い距離で考えたのは「半額渡して、問題なく発行されたら残りを渡そう」であった。インドでは、全額先払いはご法度だ。そこで5,000ルピー現金を下ろすと、500ルピー札が10枚出てきた。そこから立ち去りながら、二つに折り曲げた紙幣を見ていると(あ、結構厚いな。折り曲げたらいくらあるか分からないんじゃない?)と、とっさに思った。

振り返って係員がいたはずの場所を見ると、さらに向こうの暗闇の中に隠れていた。悪い事をする気満々だ。

私が戻って来ると、すっとやって来て「Your OCI will be issued smoothly. Don't worry」と言いながら、手を伸ばしてきたので、私は二つ折りにした紙幣を3000ルピー分手渡した。

係員は慣れた手つきで、人に見られない様にお金を受け取り、静かに闇の中に消えていった。

私はソサエティのマーケットに戻り、少しぼんやりした。

やってしまった・・・。

頭の中が混乱していて、考えがまとまらない。下に降りたら、ついでに野菜とコーヒーも買って戻ろうと思っていたけど、何も考えられない。とにかく家に戻りたかった。

終わったら夫に連絡する様に言われていたので、メッセージすると、すぐに電話がかかって来た。

恐れていた様には、(声の様子からうかがう限りは)夫は怒っていなかったが、それでも面白くないには違いない。私が彼の立場だったらそうだ。夫はどのような話をしたのかを教えてくれたが、上記にも書いた通り、住所が違っているという理由で申請を通さない、と脅されたんだそうだ。夫の考えとしては「今まで時間もお金もかけてきたんだからたかが1万ルピーでもらえるものがもらえなかったら困るだろう?」とも。確かにその通りだ。

だが私は3000ルピーしか渡さなかった。
どうしてお金を渡してしまったのか?
どうして全額を渡さなかったのか?
どうして交渉しなかったのか?

この結果として、
OCIが発行されてほっとするだろうか。
それとも、
発行が拒否されて後悔するだろうか。

正直なところ分からない。

分かるのは、今、私にできるのは結果を待つ事だけだ、と言う事だ。

なお、副産物として、当然、夫には新しい住所を教える様に言われてしまった。もうソサエティ名はばれてしまっているので、部屋番号を教えるかどうか程度なのだが、どうしても躊躇してしまう。

まったく、インドにいると色々なことがある。





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