恋愛成就のチケット 第六章
あれから2か月、隆子が住む街に建てられた市民会館のこけら落とし公演に、渡辺浩のバンドgreat traverseの面々がやって来た。
全市あげての一大イベントに、前売りは瞬く間にsold-outとなったのだが、隆子と栄二、それに洋子のチケットは浩が事前に用意してくれていた。
一階中央部分の、願ってもない席をあてがってくれた浩の気遣いが、未だ隆子に対する変わらぬ思いを指し示すかのように感じとれた栄二だったが、隆子の気持ちを全身で受け止められる今は、素直に浩の好意に甘える心の余裕が生まれていた。
デビューして間もないにも関わらず、御本家よりも聞き応えのあるカバー曲や、初御披露目のオリジナル曲など、軽妙なトークを交えながらの楽しいコンサートは瞬く間に過ぎていった。そして最後にアンコールで演奏された曲も、TAKAKO forevermore だった、生で聞く浩の歌声は、改めて隆子の胸に浩の情熱と思いの丈が感じ取れる迫力に満ち溢れていた。
終演後、スタッフの計らいで楽屋を訪れた三人は、コンサートの成功を祝うgreat traverseの輪のなかにごく自然に招き入れられた。
「紹介するみんな、俺の大学時代からの友人、元カノっていって差し支えないかな、吉岡隆子さんとそのお友だち?同僚の方?」
浩の爆弾発言によって、他のメンバー、その他のスタッフは、冷やかし半分ともとれる温かい眼差しで受け入れてくれた。
みんな気のいい奴らだった。初対面とは思えない気軽なやり取りで全員が打ち解け合う中、隆子は意味ありげな視線を浩に向け、席を外して二人だけで話をしたい気持ちを伝えた。
「浩に言っておかねばならないことがあるんよ。気づいたどうなのかかわからないけどさっきの彼と結婚することになって…
こんな時にどうかとも思ったんだけど浩には自分の口ではっきり話しておかなきゃと思って…
だけどね、黙ってるわけにはいかないことだし、出来れば式に浩にも参加して欲しいわけ。彼にもその事は了解を取ってあるんだ」
最初は突然の隆子の告白に困惑の色が隠せない浩だったが、どうしたことかすぐさま何かが吹っ切れたように、満面の笑みを浮かべる姿がそこにあった。
「おめでとう、もちろん何があっても参加させてもらうよ」
一言だけ言葉を残して、メンバーの手招きに答えるように浩は裏口への通路へ消えていった。
✱
隆子と栄二の華燭の典は、二人が勤める会社の関係者や、家族、友人に祝福されるなか、アットホームな雰囲気の、笑いの渦の中で進んでいった。
そして隆子の友人で固めたテーブルにgreat traverseの渡辺浩の姿があることに、彼が隆子の知り合いだという事実を知らされていない招待客の間からどよめきが起こった。
仲人の挨拶、会社の上司の祝辞、親友たちによる調子っぱづれな歌に続き、最後に浩の弾き語りが、暗転した会場の中でピンスポットに照らされ披露された。もちろんその曲も
TAKAKO forevermore に間違いはなかった。
思わず聞き惚れずにはいられない浩の歌が終わった瞬間、鳴りやまぬ拍手が会場全体に鳴り響いた。中にはスタンディングオベーションで喝さいを贈るものまで現れる始末だった。
頭を掻き、照れ笑いを浮かべながら最後に浩は、雛壇に並ぶ二人の前に駆け寄り、なぜか最初に栄二に向かってこう切り出した
「おめでとう栄二さん
俺の完敗 そしてその完敗に乾杯! 隆子の事を頼みます。鼻っ柱の強さだけは誰にもひけをとりませんが、バカがつくくらい人には優しい奴です。俺の分まで幸せにしてやってください」
すぐ隣で、柄にもなく伏し目がちな隆子の目に、今まで誰にも見せたことがないはずの、泪が光った。
THE END
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