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源爺物語 【キャンディーズジュニア】って知ってます?

1970年代後半、一世を風靡した元アイドルキャンディーズ,その妹分でキャンディーズジュニアと呼ばれたアイドルグループがいた。

3人組のユニットでキャンディーズの解散の跡か先か定かでないが、キャンディーズファンから大バッシングを受け、トライアングルというグループ名に改名してその後も何年間か芸能活動を続けた。しかし残念なことに然したる活躍もできぬまま芸能界を後にした。

何故私がいまこのグループを取り上げたかといえばその中のひとり上野真由美(通称マミ)という͡元アイドルが、中学の同級生だったからである。

上野は名古屋の片田舎で中学時代から芸能人になるという野望を抱き、日曜の朝、萩本欽一の司会で放映されたあの「スター誕生」にも出演経験がある。(決勝までは残れていないと記憶するが)

自分の夢を内に秘めるタイプでなかった彼女は、有言実行型の人間で「私は絶対スターになる」と周りに公言して憚らなかった。そして高校入学に伴い彼女の存在すら忘れていたある日、とあるテレビの歌番組にキャンディーズの面々と肩を並べて舞台に立つ上野の姿を目にしたとき、あまりの衝撃に自分の目を疑ってしまった。その後、あのお化け番組八時だよ全員集合にも出ていたはずだ。

とまあこんな芸能人の一人や二人、誰の身近にも普通に存在するのかもしれないが、私の中学時代の仲間の一人にアイドルの上野のほうが初恋の相手として思いを寄せた男がいた。その名をマサヒコといい中学入学と同時に転校してきた奴は、引っ越し早々車にはねられ、1か月以上に渡る入院を余儀なくされたため、奴との初顔合わせは、6月の声を聞く頃だったはずだ。その事故が多分原因で、がに股になったマサヒコは、残念なことにその後皆からマタヒコと呼ばれる運命を辿った。

奴は音楽の趣味も変わっていた、当時の俺らの仲間がビートルズやサイモンとガーファンクルに興味津々だった時、マサヒコだけは中学一年の分際でミッシェル・ポルナレフが最高だと豪語して憚らなかった。

中学の厄介者10人ほどで徒党を組み、理由なき反抗を繰り返した俺たち、リアルどくだみ荘のショボい奴らの前身は、学業成績も皆一様に低次元の争いをし、中学が義務教育でなかったら半分は留年して、中には最終学歴が中学中退の憂き目に遭いかねない野郎までいた。だがそのマサヒコだけはその他大勢とは一線を画し、学業もかなりなもので、名古屋市内でも5本の指に入る進学校に見事合格した。

しかし後日、本人から直接聞いた話なのだが、中学では上位を争った奴も、高校では超低空飛行で、半年もすると高校生活に嫌気がさし、自分の一存で高校を中退してしまった。社会の荒海に身を投じた奴は、紆余曲折を繰り返した後、ペンキ職人としての道に目覚め、現在もペンキ屋家業に身を置くはずだ。またとりわけマサヒコは、仲間内でも群を抜く発展家であったため、17で3歳ほど年上の女性と結婚して一児を設け、3年も持たずに女房に逃げられ、その時できた子がもう42になり、孫ももうすぐ社会人だなどという偉そうな自慢話を、共通の友達のお通夜の席で宣っていた。ついでにもう一つ余談なのだが、奴が在籍した高校のクラスメートにあの有名な、今は亡き川島なお美嬢がいたというから驚きだ。

我々が青春を過ごした70年代80年代は、音楽番組華やかなりし頃で、ベスト30歌謡曲(自分で言っておいてかなり懐かしい)や夜ヒットと呼ばれた夜のヒットスタジオなど数々のスターを輩出した歌番組が、日替わりで放送されていた。ザベストテンもこの頃始まったと記憶する。

吉村真理と、井上順が司会を務めた夜ヒット、番組の冒頭では出演歌手が次に登場する歌手の持ち歌のイントロをリレー方式でバトンタッチしていくオープニングが印象的で、ここまで説明すれば思い出される熟年のかたも幾らかおられるのではないだろうか?

またこの番組、決まって放送時間の中ごろに企画もののコーナーを設けており、その一つにスター初恋の相手とご対面というのがあった。なんと同級生のマサヒコは、羨ましい事にアイドルに転身した上野から白羽の矢を立てられ、夜ヒットのステージにお呼びがかかったのだった。自慢たらたらにみんなに吹聴し、勢い勇んで東京に向かったマサヒコのことを、みな喜んで見送るどころかやっかみ半部で見送った覚えがある。ここで言っておかねばならないが夜ヒットは生放送であったため奴は、当日の朝一張羅でめかし込んで名古屋を後にしたのだった。

みなさん羨ましい話だと思うなかれ、実はこの話には信じられないようなオチがある。それはこの日、たまたま静岡県を震源とするそこそこ大きな地震があり、奴の乗った新幹線は途中で立ち往生してしまった。(ほかのメンバー二人の初恋の相手は、きっちり登場した)そんなわけで結局生放送の収録時間中にマサヒコだけは、スタジオ入りすることが出来ず、そのいきさつを吉村真理が代弁するという一幕が報じられた。奴の雄姿を一目見ようとテレビの前に集まった悪ガキ仲間は、思わぬ出来事に呆気にとられ、そのすぐ後、人の不幸は蜜の味とでも言わんばかりに、大爆笑が巻き起こった。

次にみんなと顔を合わせた時マサヒコがどんな顔をして現れたたかまでは覚えていないが、皆の溜飲が下がった事だけは間違いない。

最後に一つ言わせてもらえばマサヒコは、それほどイケメンでないし、仲間内では一番の大酒のみで、みんなで集まって宴会をする時など、奴の口癖はいつも決まって開口一番「ねちゃん、とりあえずビール10本」これで決まりだった。どうしてそんな奴が上野の眼鏡にかなったか甚だ疑問ではあるが、上野自身に全く興味がなかった私にとっては大変失礼だが、どうでもいい話ではある。


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