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松本潤主演「となりのチカラ」は「マジョリティ」を描いた意欲作ドラマ(なのかも)

2022年1月期、嵐の松本潤主演の木曜9時ドラマ「となりのチカラ」

嵐の活動休止後、松本潤初の連続ドラマとして注目度は高かったからなのか、様々な反応が見受けられます。個人的には、まあ「大ウケ」するのは難しいかもな、とも思っていますが、普通にそこそこ面白いと思って継続して見ています。その自分の「楽しみ方」を書いてみます。

これを書いているのは3話まで見終わったところネタバレ全開なので、そのつもりで下記は読んでください。


※以下、ネタバレ注意※

「松本潤主演」という先入観(?)

公式サイトにはこう書いてある

新時代の《中腰(ちゅうごし)ヒーロー》が誕生!
テレ朝ドラマ初主演の松本が演じる
思いやりと人間愛に溢れた
ちょっぴり《中途半端な男》が、
孤独に生きる現代人の心を救う…!?
社会派ホームコメディ!!

まあ、今更「花男」みたいなドラマを期待してる人はいないだろうけど、松本潤主演で、さらにコメディといわれると、多分「99.9」みたいな「気軽に見れる」「シリアスもあるけど笑える」みたいなものが期待されてしまうのではないでしょうか。

ただ、今作は、残念ながら(?)最近のドラマの定石や「わかりやすさ」をあえて無視して、作っている意欲作なんだと思います。
それは後でも言いますけど、「日本のマジョリティを描く」という目的があるからなんじゃないか、と勝手に推測しています。


「スカッと」がウケる時代なのに「スカッとしない」展開

まずテーマが重い。そして主人公・チカラがおせっかいを発揮してこれらの問題に首を突っ込んで、根本解決しない!というまさかの展開です。なのでまず「スカッと」を期待してた層は、「解決してないじゃん?」とモヤモヤする。このおせっかいキャラについても、「こんな人いたらヤダ」とツッコまれて…みたいな。

これについては、いきなり核心に入りますが、私は「チカラのおせっかい」という装置(現実にこんなご近所に過干渉な人はいたら困るし、こういう人はなかなかいないので、フィクションの装置として見てます)を使って、日本に偏在する問題を可視化するため、と睨んでいます。

いうなれば「日本の見てみぬふりされがちな諸問題をアパートの各部屋に割り当てて、一つづつ可視化して見てましょうということなんじゃないかと。


「1話完結」がウケる時代なのに「1話完結じゃない(っぽい)」

しかもその解決しない問題が、積み残されて、どうやらドラマの後々の話でもちょくちょく出てくるっぽい。これは「1話見逃すと置いて行かれる」し、「先週の話覚えてなくても楽しめる」な話ではなさそう…。

なので「1話完結スカッと話!」ではなく、「回を追うごとに可視化されていく問題が増えていく話」、累積系だと思って見ています。

いうなれば「現実の問題は山積みで、人はそれを日々見てないフリをしているだけでも、色々積み重なって増えていきますよ」ということなんじゃないかと。


「社会派」ドラマがウケる時代なのに「モヤモヤ表現」が多い

で、テーマは重いです。「児童虐待」(1話)、「ヤングケアラーによる介護」(2話)、「外国人技能実習生・予期せぬ妊娠」(3話)。なんというか軽くギャグにしていい話題でもないし、かといってドキュメンタリーっぽく問題に焦点をあてているわけでもない。

とはいえ、重いテーマのドラマでも、見ごたえのある描きかたをすれば、高評価は得られるわけです。例えば最近だと「MIU404」の技能実習生の描き方は、リアルで、悲痛で、凄かったですよね(ちょっと適切な語彙力がない…)。ここではドラマという「フィクションを使って、現実の問題を鋭く指摘する」という表現がされていました。

しかししかし、なぜなぜどうして、この「となりのチカラ」では、主人公のチカラと、妻のアカリは、社会問題に対しての言動が、どうにも頼りない。「児童虐待」についても、変な理由で児童相談所の相談をためらったり、外国人に対して「日本の男とは」を持ち出したりする。2話で痴呆で困ってたおばあさんが、3話で余計なことばっか言うおせっかいおばあさんになったりする。主人公のチカラのモノローグも含め、各セリフに(そういった社会問題コンシャスな層からすれば思わず眉を顰めるような)、現状追認的で、家父長制をベースにした、ジェンダー意識も低いような、イライラする表現も多い。
この段階で、そういった社会派な描写のあるドラマが好きな層がモヤモヤしてしまいます。

何故こんなことになるのかといえば、(ドラマの描き方がクソド下手とか、演出がダメダメとか、俳優の演技が良くない、みたいなことではなく)、個人的には今作はそういった「日本にある諸問題に焦点を当てたドラマ で は な い 」からだと思ってます。

じゃあ何が描きたいのか:(日本の)マジョリティ

っていうことなんじゃないかと。要は諸問題を描くのではなく、諸問題によって明らかになる「日本のマジョリティの態度」が描かれているのではないかと思うのです。

一旦ここでは「チカラ(一家)」を「マジョリティ」として考えています。この分野の専門家でもなんでもないので、細かい定義とか求められると困っちゃうのですが、ここでは、「今作で描かれているような諸問題に対して無関心であり、その背景や適切な対処の仕方など普段特に考えていない、文字通り”多くの人”たち」のことを、「(日本の)マジョリティ」としておきます。

ここでチカラの「過剰なご近所への関心」という本来マジョリティに備わらなさそうな機能をフィクションとして付与することで、「マジョリティが諸問題に触れたときの態度や言動がどういう風になるのか」が描かれ明らかになる、というのがこのドラマの肝なのではないかと思っています。

だからこそ、理想通りにはいかないモヤモヤな言動(虐待を通報できない)とか、コレクトじゃない反応(「日本の男」)が出てきて、なんだかスッキリしないんだけど、とりあえず根本解決は出来ずとも一旦事態は落ちかせて乗り切って日々暮らしていく、という。これが逆に現実からするとリアルなんじゃないか、と。

これまでドラマでは「マイノリティ」(あえてこう書く)がフィーチャーされて、それが「〇〇ドラマ」と呼ばれて、みたいな展開はあるけれど、逆に「マジョリティ」を主題にしたっていうのは、新しいかもしれないですよね。このドラマは表面的には「日本の諸問題」を描いているけれど、「日本」に「諸問題」があるならば、それはもう各問題の話じゃなくて、むしろその土台たる「日本」の問題じゃないですか。それを描いてるなら、もう「日本のマジョリティドラマ」って呼べるかもしれないじゃないですか?みたいな。まあでも視聴者の大多数もその指摘されるマジョリティなわけで、なかなか大変な戦いですよねこれは。もし本当にそうなら。冒頭で言った通り、「大ウケ」は難しいかもしれない。

だってさあ、なんか、現実でもありませんか?こういう、ちょっとその場では少数的な意見だったり、相手からすると思いもよらぬような事実とかを提示すると、「親切に応対してくれようとしてる感じは伝わるんだけど、めっちゃ間違った反応される」みたいな時。なんか、「職場で妊娠を伝えたとき」とか、「友達に障害を告白したとき」とか。そこでも根本的な解決はないけど、何かが少しずつ変わっていくような、いかないような、そんな感じで一旦は進んでいく(しかない)じゃないですか、というリアル…。

そういうやつのもう少し構造的なやつを、あの松潤でドラマ化するって結構な挑戦だよね、もしそうならね、と思っています。また、そういうのが描かれるのが、起承転結の「承」とかの部分だったりするので、話のクライマックスの盛り上がる部分と違う部分に主眼がある、みたいな、一見分かりにくいドラマになっているのではないか、と見立ててこのドラマ見ています。

なので個人的な楽しみ方としては「うわー、その場面でその反応は間違ってる~、けど、いざこんな問題に直面して、そうなったらそういう風に言っちゃう人がいるのめっちゃわかる~、よくないわ~。よくないけどリアルだわつらいわ~。もしかしたら自分もそうしちゃうかもだし・・・?いや、つらいわ。」みたいな感じです。全然スカッとしない。でもスカッとするだけがドラマじゃないじゃん。

まあ、とか言ってて、制作側にそういう意図が全くない可能性もありますからね!創作物ですから。あくまでいち意見として参考にしてみてください。

今後の展開

っていう見出しを付けてみたものの、全くわからないです。上記の見立てが正しければ、今後の日本という国の取る舵の方向次第かもしれません…、みたいな壮大なことも考えたりしますが。

「全ての問題が少しずつ積み上がってきて、諸問題が相互に干渉しあって、チカラの手に負えなくなって…」みたいな展開はありそうですね。そのあと「住民がみんなで力を合わせてなんとか表面的には乗り切る」みたいなので終わらせるか、あるいは意欲作なので「どうにもならなくなってバーストする」みたいなバッドエンドもあるかもしれませんね。

そしてこれだけ「全話見ないと置いて行かれる」と書いてるので、最近よくやる「最新話だけでもTVerで見てみてよ」みたいな勧め方もしづらい。困った。
逆に言えば、後々配信サービスとかで全話一気見とかするとテンポよく見れるかもしれない(なので五輪による飛石放送はちょっと痛い)。

まあ、「超面白いよ!」みたいな布教するドラマではないけれど、「イマイチこのドラマの楽しみ方わかんないな」みたいな人に「こんな楽しみ方してる人もいるよ」って伝わればいいなぐらいの感じで書きました。


※追記:いまなら(この記事を書いている時点では)、1~3話までTVerにあるみたいです。いつまであるかわからないですが是非見れるうちに。


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