見出し画像

絶対に失敗できない!ビレイの話「ATC」「グリグリ」操作方法と特徴


ビレイヤーの役割

ビレイヤーは、登っているクライマーが墜落しても、地面まで墜落してしまうことのない様にロープを操作する必要があります。

ロープの操作には大きく分けて3種類あります。

1、ロープの引き込み
2、ロープの繰り出し
3、ロワーダウン

これらどのシーンにおいてもクライマーの安全を守る必要があります。

ビレイはクライマーの安全を守る技術ですが、その操作にはさまざまなリスクがあります。また、ビレイ器具もタイプの異なるものがたくさんあります。これらをひとつひとつ説明するのは大変な文字数を使うので、ここでは、ビレイ器具の代表的なモデルであるATCとグリグリについて進めていきます。

ATCとは

クライミングを始めたばかりの人がまず使うビレイ器具と言っても良いでしょう。かなりメジャーなビレイ器具で、ビレイだけではなく、懸垂下降も出来ます。そのため、初心者からベテランクライマーまで幅広い層のクライマーに使われています。

ATCはロープの屈曲角度を増やして摩擦を作り出し、それによって墜落したクライマーを人の握力で制御できるように設計された器具です。ロープの屈曲角度の合計は360度に近づけば近づくほど強い制動性を発揮します。

勘違いしないで欲しいのは、ATCそのものがクライマーの墜落をとめる器具ではないということです。ですから当然、手を離してしまえばクライマーは落ちてしまいます。

ATCがこれだけ長い間使われ続けているのには理由があります。それは構造自体がシンプルであること。人間の心理と器具の構造がマッチしていること。これが、ATCが信頼されているひとつの理由です。心理と構造については後で詳しく解説します。

画像2

ATCの操作方法

制動に使う手をブレーキハンド、補助に使う手をサポートハンド、と呼びます。多くの場合、利き手がブレーキハンドとなりますが、やり易い方で構いません。

ここではトップロープクライミングの基本的操作を覚えた方を対象に、リードクライミングのビレイを解説します。ビレイのセットやトップロープのビレイ方法はYouTube動画を見ることで理解できます。参考にしてみてください。

先ほど、摩擦を作り出すのがATCだと書きました。ロープが屈曲した状態でサポートハンドだけを使ってロープを繰り出そうとすると、多くの力が必要になるばかりか摩擦抵抗がかかりすぎてロープはうまく繰り出せません。ロープを繰り出すときは、サポートハンドとブレーキハンドを同じタイミングで動かします。

ロープの屈曲角度は変えず、両手は同じタイミングで動かす
ブレーキハンドはATCよりも前に出ないように気をつける

ブレーキハンドは常にATCより下に位置するように心がけ、ロープを繰り出すときは「下から上に」ブレーキハンドを動かすことを忘れないでください。ATCよりも上にブレーキハンドが位置してしまうとロープの屈曲角度は360度の半分180度になってしまいます。そうなるとロープはカラビナの中で折り返されただけの状態になってしまいます。運悪くそのタイミングでクライマーが墜落してしまうと大変危険です。

次にロープの余剰を取る方法と、テンションの方法の解説です。ロープの余剰を取る際にはどうしても下の写真のように180度の屈曲角度になります。しつこいようですが、この状態が1番危険です。素早くブレーキハンドをATCより下に持ってきましょう。

1、ロープの余剰を取るため一度ATCより上にブレーキハンドがくる
2、素早くブレーキハンドを下に戻す
3、ブレーキハンドを360度の屈曲角度まで持ってくる

次にテンションの方法です。上記した方法でもある程度テンションの状態を作り出すことは可能ですが、ロープの伸びも考慮するともう少しロープに張りを持たせたいところです。正しいテンションとはクライマーがロープに体重をかけた時、クライマーが下に下がらないことです。意外と出来ていない方が多いので、特に初心者の方は確認してみてください。次の写真からその方法を解説します。

1、サポートハンドをブレーキハンドの上に持ってくる
2、ブレーキハンドをサポートハンドの上に持ってくる。
3、通常の状態に戻る
4、ロープを強く引いて更にロープに張りを持たせる
5、ロープを弛ませないよう素早くブレーキハンドを下に持ってくる
6、体重をかけて更にロープに張りを持たせる

ロワーダウンはこの状態のままブレーキハンドでロープを緩めていきます。サポートハンドはこの状態でも、写真1のようにATCの下にしても構いません。気をつけることはロープの角度を変えないことです。

グリグリとは

自動で制動を効かせられるビレイ器具としては世界一のロングセラーです。それだけクライマーからの信頼も厚く、年を経るごとに改良を重ねて現在に至ります。ここでは最も古いタイプを例にしますが、最新のものでも基本的な操作は同じです。

画像4
グリグリ初代モデル

器具の中にスプリングが入っていて、墜落のような強く早いロープの流れに器具が反応してロープをロックします。この機能は仮にクライマーが墜落時に手を放してしまってもロープを止めることが出来ます。

ただし完全に器具が機能した場合に限ります。どういうことかというと、クライミングエリアというのは通常屋外にあります。土や砂、木切れ、などはどこにでもあります。それらがグリグリに挟まってしまうことで十分に機能せず事故を引き起こすことがあります。またグリグリの角度がなんらかの理由で斜めになっていた場合などはロックが効かないことがあります。ATC同様ブレーキハンドは絶対にロープから離さないようにしてください。

また、グリグリは器具そのものを握るとスプリングが機能せずロープをロックできないという特徴があります。落ちた人を見て咄嗟に何かを握りたいと思うのは人間の持つ反応のひとつですが、器具そのものを握ってしまうと滑落を止められないという、人間の心理的な行動と器具の構造がマッチしていない特徴があることを理解しましょう。この点を踏まえてATCを思い浮かべてください。ATCは「墜落→握りたい」という人間の心理が器具の機能とマッチしていますね。私たちインストラクターが初心者にATCを最初にすすめるのも、この部分が大きな理由となっています。

ここから先は

2,013字 / 6画像

¥ 300

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートはクライミングセンター運営費に使わせていただきます。