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足踏みする夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

彼はもの静かな人でした。夏に赤提灯でビールと焼き鳥の約束をしたのです。静かな紙タバコを吸い、静かにグラスを空けていき、たまに面白いことを言いました。

マッチングアプリでやり取りする中でも「いい人」が見え隠れしていました。飲み仲間になるには最高に素敵な友人でした。

たまに恋愛に卑屈になっているようなことを言いました。それだけが彼の闇でした。席についた時も言ったのです。

「本当に赤提灯でいんですか?イタリアンとか好きそうじゃないですか?」

私は彼と話すのがとても心地よく、また一緒に飲みたいと心から思いました。

ただ、私の余計な一言でそれは変わってしまいました。私は会った初日でも、「いい」と思った人とは体を重ねる話をしたのです。彼のことは「いい」と思いました。でも、それはすぐに体を重ねる「いい」とは違っていました。

恋に卑屈な彼は言いました。

「俺でも大丈夫?」

「もちろん」

その言葉に嘘はありませんでした。でも、それはニュアンスが違っていました。飲んでいる時は次を楽しみにしていたのに、すでにその言葉は重くなっていました。

彼からは「会いませんか?」とお誘いが届きます。でも、それは「体の関係」の約束のような気がして、どうしても約束に踏み切れませんでした。

「飲みに行こう」

その一言を言えばいいだけでした。でも彼の卑屈さを倍増させるような気がしてしまいます。コロナで街も飲むのが難しい空気なのをいいことに、私はずっと足踏みして、彼との約束を延ばし延ばしにしていたのです。

半年たった頃、彼は我慢できなくなりました。

「もういいです」

その言葉と自分の思いをメッセージで伝えてきました。

私はそれをこっそり読んで、そのメッセージをソッと消しました。ぶつかることを恐れた結果でした。

彼に本当のことを言っていたら、結果は変わったことでしょう。足踏みなどせずに、真っ直ぐに歩いていけたかもしれません。足踏みは私を守ってくれるけど、時に卑怯な自分に気づかされます。明日は誠実な気持ちで生きていけますように。おやすみなさい。

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