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違う分野での相互学習【数学とスポーツコーチング】

 5/30(土)の午前10時より配信されました「数学の世界からコーチングを学ぶ」とても面白い内容でした。(ダイジェスト版はこちら:フル版はこちら)

 なぜ数学!?という点ですが、きっかけは僕の個人的な興味が発端です。数学の中身もそうなのですが、ゲストの佐藤 光樹氏が有する言語化能力を、どこかで披露して欲しいと勝手に思っていました。
 スポーツの話題を振ってもガンガン喋るし、音楽の話題も話せる。加えて、数学のことを聞くと、不思議と難しさを感じさせないように説明をしてくれました。(実際は超難しいのですが笑)
 これは絶対面白い!と思っていた矢先、SCJのYouTubeライブで全然違う分野の人との対談をしようという話になり、提案させてもらいました。

 ここでは話のあらすじに加え、スポーツとの共通点・違う点についてまとめています。

1.学校授業の数学と学問の数学の違い

「学校の数学は、すでに完成された数学を学んでいくことです。正解がある問題についてその計算方法などを身に着けることなど。
 学問の数学は、まだ計算手法が見つかっていない、それが正しいかどうか分からないものに対してアプローチしていくものですね。」

【共通点】取り組みの先が正解かどうか分からない中で、自分なりの解を探していくというスタンス。仮説を立てて、実戦で試して結果(勝敗)を見る

2.勝敗について

「数学では『仮説の証明』に加え『仮説の否定』も勝ちになります。結論を出せば勝ちです。負けは、その結論が出せていない状況です。」

【違う点】時間軸が違う。スポーツはセット数や時間など、限られた時間の中で行いますが、数学は「いつまでに」という概念がない。だからこそ「結論を出すこと自体」に価値があると思う

3.数学者として大切な能力

勉強する力と研究する力がそもそも異なっています。」

・勉強する力=人が立てた理論を追っていく力(素直さや理解の速さ、勘の良さなど)
・研究する力=人が立てられなかった理論を立てられる力。型破りな要素が必要。既成の理論を否定的に見ることができるかどうかが重要。ケチをつける力とも言える

【共通点】戦術の進化という点において、もっとよくできるとか、いかに疑いを持てるかどうかという視点は上記の研究する力と似ていて、非常に重要で、またコーチがどういう戦術を敷こうとしているか理解し、実行するという部分(戦術理解度)は、上記でいう勉強する力と似ている。
 すでに考えられている理論や戦術を後追いしたところで、それは既にみんなやっていることだから、そこに疑いを持つ姿勢というのは共通して重要である。

4.「型」の存在

「スポーツコーチだと、自分の得意な領域やスタンス、型が存在していますが、数学はどうですか?」
「あります。そういう型がある人が、すごいスペシャリストになったり、誰にも真似できないことをやったりします。それが独創性や開拓につながっていくと思います。ちょっとしたことをマニアックにめっちゃ突き詰めるとか。」

【共通点】一つのパターンでは結果が出ないことがあるので、いろんな引き出しを持つ努力をしたり、違う引き出しを持っている人とチームを組んだりする。別のスペシャリストをつけるような感じ。尖っている同士で組むと面白い

5.どれだけ好きになれるか

「どれだけすごい理論でも、旬を過ぎて整理され過ぎてくると、発表当時の温度感がなくなり、無味乾燥としてくるんです。笑 その研究の意図とか背景が読み辛くなるんです。」
数学は登山に近く、誰が最初に踏破するかという感覚に近いです。踏破してやる=解けない問題を解いてやる!みたいな感じです。」

【共有点】熱がどれだけ入っているかが大事。思いを持って取り組めるか。この部分は全く同じ

6.数学は登山に近い

「先ほど話した『数学は登山に近い』感じ。さっきは誰が最初に踏破するかでしたが、違うルートがあるかも、という視点は数学にもあります。」

「まだ登っていない山もあると思うのですが、どうやって山を探しているのですか?スポーツコーチとしては、新たな視点で戦術を考えるアクションと似ている気がしているのですが。」
「一度登った山を何度も登ったりすることで、構造を理解できるようになってくる。その山が語っている物語を聞くかのような。。その道筋を理解するごとに『このストーリーならこっちの話も通るのでは?』傾向や性格を掴むのも大事だと思います。」

「そして数学者は、特大ファインプレーを野心的に追求している気がします。スポーツだと、ある程度コンスタントに結果を出すことが求められているかもしれませんね。歴史に残る偉大さの定義が違う感じがします。」

【違う点】勝敗でもあるように、時間軸が違う。スポーツでいう試合は、数学でいうと年に1〜2本程度の論文になるので、本数が違う。なので、その論文を十分に読み込み、物語をじっくりと理解することができる。(上記でいう、人が踏破した山を何度も登って見る感覚)数学界では、評価時間軸が5年間だったりする。
 スポーツは試合のサイクルが早いので、ガンガン仮説立ててどんどん回す。ここは大きく異なる。だからこそ、スポーツにおいては後追いしかできないと評論家みたいになってあまり良くない。早いテンポで前に進まないといけない(オリンピックだと別かもしれないが)

7.質問1:証明が不可能なものはある?

不完全性定理というのがあります。証明も反証もできないというものです。これはいくつか存在しています。
 逆に、証明と反証が両方できてしまったら、理論としておかしくなってしまう。これが出てきちゃうと、数学界が全部ひっくり返ります。笑」(視聴者からのコメントで、「数学界のバルス」というコメがあり、筆者爆笑)
「現状は、この問題を解ける前提で考えるか、解けない前提で考えるかを決めて考えることが多いです。一方が結論にたどり着いたら、もう片方は諦めます。悔しかったりもありますが、誰かが解いてくれたという喜びもありますね。」

8.質問2:スポーツでいうトレーニングは、数学では存在するのか

「あります。論文にならないけど解いてみるとか。アプローチテクニックや、理論の使用感などを確かめたりしますね。武器を使いこなせないと大きな敵は倒せないので、手ごろな敵で試すようなイメージでしょうか。」

【共通点】難しい問題(相手)と一戦交えることによって、何が足りていないのかという差分を測ることができる。このアクションはとても大事。

9.質問3:数学界にコーチはいるのか

「例えばゼミとかで、理論に対して講義をしたりする際に、その議論はおかしくないか、とか、着眼点についてフィードバックしたりすることはあります。教授とかがそれを担っています。これはまさにコーチングを受けていることと同じかもしれません。
 ちなみにこれは『勉強』のためのコーチングであり、『研究』のためのコーチングはまた別です。論文を読む時の留意点とかが、それにあたりますね。このアプローチ、まだ甘くない?とか。そういうフィードバックによって、問題が解けたりします。」

10.スペシャリストのチームプレー

「数学は人数制限のないスポーツみたいです。何人で挑んでもいいし、それでも勝てない。でも、スペシャリスト集団で挑むことが楽しかったりします。」
「スポーツだとスペシャリストとジェネラリスト両方必要なのですが、数学はどうですか?」
「数学では、精神的なジェネラリストは必要です。スペシャリストは、好みでそれを選んでいる部分も多いので、他の分野に興味がある人の存在は不可欠だと思います。」

【共通点】一人ではできないことがたくさんある。人に力を貸してもらう視点は共通して重要である。相互に理解があったり。「そっちの考え方も重要だよね、とか。」

11.研究する力である「批判的思考」を持つためには

「難しいですね。一流大学出てても、この視点を持てない人も多いですし。それを人に与えるのは難しい。」

【共通点】今までの道のりで、なんとなくうまくできてしまったり、やれちゃってきた人は、その視点を持つことは難しいかもしれない。自分の枠をはみ出せない。これはスポーツでも良くある話

12.数学とスポーツの決定的な違い(佐藤氏視点)

時間軸ですね。あらゆる物事の特徴ともいえるんじゃないかと。物の概念そのもののような気がします。
 数学なら、5年間で何かできればいいよって感じなので。それは他の分野では許されなかったりすると思います。笑」

【共通点】「とはいえ、目標に向かって日々何するか考えて行動すること」に関しては同じである

13.まとめ(自分視点)

【共通点】としてあげているものは、どの分野・どのシチュエーションにおいても重要で、誰しもが常に意識するべきものだと思いました。普遍的で本質的に、人として生きていくために無視できないポイントだと思います。以下です。

・取り組みの先が正解かどうか分からない中で、自分なりの解を探していくというスタンス。仮説を立てて、実戦で試して結果(勝敗)を見る
・いかに疑いを持てるかどうかという視点
・いろんな引き出しを持つ努力をしたり、違う引き出しを持っている人とチームを組んだりすることの大切さ
・熱がどれだけ入っているかが大事。どれだけ思いを持って取り組めるか
・難しい問題(相手)と一戦交えることによって、何が足りていないのかという差分を測るアクションの必要性
・人に力を貸してもらう視点は共通して重要
・今までの道のりで、なんとなくうまくできてしまったり、やれちゃってきた人は、物事を批判的にみる視点を持つことは難しい⇨疑う意識を持つことから始める
・遠かろうが近かろうが、定めた目標に向かって日々何をするか考え実行することは結局同じ

 以上を踏まえると「なぜ分野を超えて横断的に学ぶことが大事なのか?」という問いに対しては「全く違う分野が交差した際に見える共通点を把握することで、物事の本質に近づくことができるから」という僕なりの解を一つ導くことができました。

では。


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