飲食店未来学89:お得感が売りの店は自己倒壊する~激変する飲食業界
一昨年10月以降から毎年春(4月)秋(10月)中心に毎月繰り返される食材値上げにより『お得感が売り』のお店は、業態が成り立たなくなる絶壁に向かって1日1mmずつ前進している。
そのお得感が売りの業態とは、
●吉野家、松屋、すき家などの低価格丼業態店
●スシロー、くら寿し、はま寿司などの回転寿し業態店
●きんぐなどの焼肉食べ放題店
個別にメニュー内容や売価を見ると、よく研究してしのいでいますが、業態破壊につながる根本解決策は今時点で撮ることは不可能です。だから、絶体絶命の絶壁に向かって進むしかないのです。
それぞれの業態には価格の壁があります。それを説明しましょう。
低価格丼業態店の壁は1000円の壁
細かく見ると、次のような壁にさらに分かれる。
●デフレ期は500円の壁
時代は節約重視と超グルメという二極化時代に入りましたが、この低価格丼業態店は、客数減を取り戻すため、他社との競合に負けないために、まるで自分の足を食べるタコのような自虐的値引きサービスを始めています。
彼ら経営陣には、Authenticity(本物らしさ)をもっと出す努力をしなければ、残された手段は価格の安さしかない。未来の景色は、共倒れと業態消滅しか見えてこない。
●通常期は800円の壁
吉野家さんの商品構成や価格分布をみても、客単価800円以内は実現したいという意欲が見える。しかし、商品力は上がっただろうか。地域ごとの牛丼の肉の量は均一だろうか。はたしてリピートを生むだけの商品力のある新商品を出せているのだろうか。
現状を壊さずに売上を上げたいという意識が垣間見える。
●コストアップ期は1000円の壁
この低価格の丼業態で、最終的に行き着く価格は売価999円です。この価格の絶対の壁を乗り越えられたら大したものです。実現できるとすれば、価格に見合う大きな感動とお値打ち感を消費者に伝えるしくみに変えることができるかどうかです。
回転寿しの壁は1皿400円の壁と客単価3000円の壁
スシローさんが近くに開業してから結構長く利用しています。魚ネタが高騰し始めた一昨年の10月以降、シャリも、シャリ酢も、ワサビも、茶わん蒸しも、つける醤油も、例外なくコストを見直しされ、似て非なる別物に置きかえられてコストダウンを実行されてきました。
もはや、2年前、3年前の寿司ネタの品質、鮮度、厚み、形の良さは望めません。前回行った時も、シャリがすべて潰れた寿司が出てきていました。18時に持ち場をチェンジされたようで、ホール作業に出てきたのは筋肉隆々のブラックボーイ君でした。シャリの鮮度も、商品の安定感も、昼夜のピークタイム中心の方がきちんとしているようです。
1皿400円の壁は、言い換えると1皿300円台までしか手に取らない、一挙にオーダー数が減る壁ということです。
私の場合でも、数年前までは、1回の利用金額が1、500円どまりでしたが、1,800円になり、今は2,000円前後が通常に変りました。おおむね寿司ネタの方はギリギリ合格ラインですが、かってのように安定した状態ではありません。まるで日ごと、週ごとに、ネタの供給が自転車操業のように変化する様です。(鮮度、形、厚み、食感が変わる)
地元の1皿200円~600円の数店舗しかない回転寿し店(実際はレーンに流してなく全品オーダーで職人さんが手で握り提供する)でも1人3,500円で利用できる。したがって、機械を使ったシャリ成形とアルバイトを使った寿司づくり、冷凍ネタ中心の添加物一杯の安さを売りにした回転寿しは、3000円の壁があると思うのです。
大規模チェーンならではの寿司ネタ確保の絶対使命が高値購入を促進せざるを得ないことが、やがて体毒になるわけです。
焼肉食べ放題の壁は1人5000円の壁
何度か投稿したきんぐさんのメニュー構成と価格を見ると、集客力の低減を意識して、価格の維持と、売れる食肉の絞り込みによる安定供給と、肉より原価率の安い新メニュー料理へのオーダー比重を誘導していることが窺えます。
後進国が少しづつ裕福になり牛肉の消費量が増える度に、焼肉食べ放題業態店は、高値で買うしかありません。しかし、価格転嫁に限界があります。それは、食べ放題で5,000円を超えられないことです。2人で1万円支払い、さらに飲み放題をつけると、通常の焼肉店の方がメリットがあることになるからです。
したがって今後は、第二、第三のきんぐコースを生むしかないでしょう。
私はこれらの飲食業態を否定しません。しかし、業態を維持して限界まで進んで消滅するか、次期成長業態を生み5年~10年をかけて乗り換えをするか、選択を迫られます。
(了)