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映画感想文 プロローグからの 『変態だ』

これまでの人生、あまり「映画」というものを楽しんで来ませんでした。


映画は見始めると2時間弱拘束される。その束縛感が、なんとなく好きになれなかったのです。


また、「映画評論家」と呼ばれる人々の存在も、私の映画離れを加速させました。

彼らの評論を見聞きしていると「映画には正しい見方があって、そう見れない人はみんなバカだ」と言われているような感じになり、映画に対して「素人が手出ししてはいけない領域」のような近寄りがたさを覚えてしまったのです。


そんなこんなで、なんとなく映画というものにある種の「不自由さ」のようなものをを感じてしまい、映画を楽しむことができなくなってしまっていました。


しかし最近、ある人の影響で私の苦手意識が一変しかけています。


その人物とは、みうらじゅんさんです。


みうらさんの映画評論は、びっくりするくらい自由です。
本筋と全く関係ないところが気になってそれについてばっかり語ったり、時には映画とほぼ関係ない思い出話で評論が終わったり(笑)。

しかしそれを見ていると、「あ、映画って別に自由に見て良いもんなんだ」と気付かされもします。
そう思うことで最近、私も徐々に映画を楽しめるようになってきたのです。


2時間弱拘束されるのは未だに少し苦手だけど、「こんな映画に2時間も取られた!」というネタにしてしまえば面白いのかななんて、最近では広い心を手に入れつつあります(笑)。


このブログは、映画に苦手意識を持っていた私が、徐々に映画の楽しみを覚えていく様を、感想文を発信することを通じてリアルタイムでお届けしようというブログです。
映画好きの方に読んでもらうのは恐縮すぎるので、どちらかというと私のように映画が苦手だという方と一緒に楽しめるのをコンセプトに書き進めていくつもりです。


というわけで、ブログ1発目は、みうらじゅんさん原作の映画 『変態だ』について書こうと思います。


さらりと書き始めようとしたけど、このタイトル改めて凄いな…(笑)。


私がこの映画を観たとき、一番感情移入できたのは月船さららさんが演じる「薫子」でした。
もはやこの映画は「薫子の大失恋劇」と言っても過言ではないのではないかと思うほど、薫子が気になったのです。

まず、この映画を一言であらわすと、「売れないミュージシャンの青春と不倫の物語」ということになると思います。
前野健太さん演じる主人公は、白石茉莉奈さん演じる妻と生まれたばかりの息子と、ごくごく普通に「幸せ」な家族生活を送っています。
ところが一方で、薫子との愛人関係もダラダラと断ち切れずにいるという(しかも薫子との情事はハードなSMプレイ…笑)。

ここでミソなのが、主人公と薫子の関係は、主人公が結婚前から続くものだという点だと思います。

つまり、薫子は、主人公に「選んでもらえなかった女」なわけです。
ただ、なんとか「SMプレイ」という形で、主人公との関係をつなぎ止めていた。

一方、主人公の妻の方は、不倫されているとはいえ「選ばれた女」です。言ってみれば「勝ち組」ですよね。

妻の「勝ち組感」は、映画の演出にも現れているように思います。
例えば、映画全体はモノクロなのに、主人公と妻の濡れ場シーンだけカラーになる。
また、この濡れ場シーンがやたら長い(笑)。
なんならAVとしてもちょっとした満足感が得られるレベルですよ(笑)。


美人で優しくて身体も良くて……もはや「完璧な妻」と言う他ない。そんな妻でも埋められないちょっとした(ドMという)性癖の穴を埋める存在。それが薫子というわけです。


薫子は主人公へのドSたっぷりのキツい当たりとは裏腹、主人公のことを純粋に愛しています。
主人公が遠い雪山のロッヂでコンサートをすることになった時も同行しているし、ライブ後にも「良かったじゃん、ジェレミー(曲名)」と声をかけます。
あんだけドSな態度を取っておいて、その歌声と曲にうっとりしていたわけですね。ツンデレか(笑)。


そんな薫子は、真冬の雪山でまざまざと現実を突きつけられてしまいます。


ロッチでのコンサートで客席に(来ていないはずの)妻がいることに気づいた主人公は、薫子の手を引っ張り、逃げるように雪山の中へ入っていきます。
鬼気迫る表情で逃げる主人公と、困惑する薫子。2人はどんどん大雪の山の中へ入っていく・・・。


とうとう人気(ひとけ)のないところまで来たとき、なんと主人公は「ここでSMプレイがしたい」という態度を示したのです(笑)。


このことによって、薫子は「あ、自分は本当にプレイだけの女なんだ」と気づいてしまうわけです。
主人公は、寒さに震える薫子の身体のことなんかお構いなしにSMプレイを要求するのですから(前田さんの素っ頓狂な「ワンッ!」が、その虚しさを引き立たせていました…笑)。

そこで見せた薫子の嬢王様っぷりには、尋常じゃない悲壮感がありましたね。
プレイとしては責めているのに、精神的にはズタズタに責められているという。
嬢王様をしながら「何で私じゃないの!?」と叫んだシーンからも、薫子の愛は純粋なものであったことが伺えます。

一方の主人公は相変わらず素っ頓狂に「ワンワン!」と吠え続け、喜々としてハードな責めを受け続ける(笑)。この雪山のSMシーンでのお二人の演技には、思わず鳥肌が立ってしまいました。


そして、薫子はなかなかえげつない最期を迎えます(ここはぜひその目で確かめていただきたいです)。

このシーンで流れる月船さん歌唱の「ファックミー」には、生前カート・コバーンがアンプラグドで歌い上げた”All Apologies”と同じ種類の神々しさを覚えました。

いやはや、タイトルを見たときはこの映画でこんなに泣きそうになるなんて思ってもなかったなぁ(笑)。

他にも、まさかすぎるクライマックスの展開や、演出で滑らされているのか本当に滑っているのかわからないウクレレえいじさんのネタなど、書きたいことはたくさんあるのですが(笑)、今日のところは「薫子」にスポットを当ててこの映画をご紹介させていただきました。

個人的には、色々な楽しみ方ができてとても面白い映画だと思いました。
何でこの映画劇場公演してる時に気付かなかったのかなぁ…。
もしまだ観ていないのにここまで読んでくれている方がいるとしたら、騙されたと思ってぜひ観てみて欲しいです。


白石茉莉奈さんの濡れ場シーンだけでも一見の価値があるので!(結局そこか 笑)