女ともだちの文通 2-3


M

そうそう、あなたに読み解いてほしい文があったのでした。

WHEN THIS SAIL OR DIES HE WILL
GO TO HEAVEN BECAUSE HE HAS
SPENT HIS TIME IN HELL

今の彼(R君と呼んでます)のジッポーに書いてあるものです。この反対側には、男女が裸で桶のような形をした湯船に向かい合わせで入っている絵があります。
女性はこちらを向き少々驚いている様子で、男性は背を向けているもののその横顔は笑っているようにも見えます。
単語の各々の意味はわかるのですが、いまいちつなげるとしっくりこないのです。
さわやかな内容でないことは間違いないですが、解読にご協力いただけたら幸いです。

いちばんたいせつなことは目に見えない

サン=テグジュペリの「星の王子さま」で有名なセリフです。
あなたは見えない何者かからメッセージを受けとっているようですが、上記に習うとすればらまさにそれが答えなのではないでしょうか。
見えないものを受けとっているという自覚は全ての人ができるわけではなく、そのことにあなたも気付いているようですね。
わたしはこういったことに関して星の王子さまから大いに影響を受けましたが、あなたは自ら気づくに至っていて、さすがだなと感じます。
きっとこれからも、たいせつなものを手にしていくのでしょう。
ただ、心が正直であるように。

p.s.
プレゼントありがと!
生花は玄関に飾りました!

沙也加


沙也加

おかしな英文です。たしかにひとつひとつの単語の意味がわかってもつなぎ合わせようとするとなんだかむず痒いような感じになりますね。
考えるに、理由のひとつには句読点もカンマもないからということが挙げられるでしょう。
もうひとつは、dieには三単現のsがついているのにsailが浮いてしまっているというところもあるでしょうか。
調べればわかると思いますがらsailには「帆」「航海」といった名詞的意味のほかに「出勤」とか「走らせる」という意味があります。この文章のままだと、名詞ととればいいのか、動詞ととればいいのか判断がつきません。でもまあしかし普通に添削すれば
When this sail's or dies, he well go to heaven, because he has spent his time in hell.
とするのが妥当でしょう。だからつまり、sailは動詞だと思うのです。
もう少し調べすすめていくと、次のようなことも明らかになりました。
"do or die"というイディオムです。これは一か八か、死ぬ覚悟でやる、とかいった意味があります。たとえば " I'm determind to do or die." これは死ぬ覚悟で遂行するという訳になります。あとはhellについても触れておくと、これは地獄と訳することもできます。けれどまあ「ちくしょう」「クソ」とかそういう意味もあり、やや下品な言葉でもあります。だからこれをもとに英文に訳をあてはめると、「彼が死ぬほどヤれるんなら、その男は極楽をみることができる。だって彼はずっとクソみたいな毎日を送ってたんだもの」(うさばらしに思いっきりやっちまって、気もちよくなりたいゼ!!)といったところでしょうか。
読みにくさを助長しているsailに三単現のsをつけなかったり、文章を区切ったりしないといった点は、あえてそうしているのだと思います。性的な文章であることは、描かれている男女の描写からも間違いなく、あえて曖昧にごまかしているのではないでしょうか。そんなところで。(笑)
また手紙かきますね。からだに気をつけて!!

M


M

わかりやすい英文の添削をありがとう。
まったく、あなたという人はどこまでも聡明な女性です。
"do or die" なるほど、このイディオムの理解によってだいぶ全体の理解度が高まりました。そして、less is moreに続き、わたしの座右の銘となりました。

人間は常に選択に迫られ、そういった意味ではいつでも一か八かの状況にあるといえるでしょう。そしてわたしは今、特に大きな一か八かを目前にしています。仕事を辞め、転職することにしたのです。昨日立て込んでいた仕事が落ちつき、上司に辞める旨を伝えました。さらに上の上司である部長と近々話すことになっていますが、わたしとしては直属の上司に伝えることが一番のネックであったため、それを越えた今、どこか肩の荷がおりたような、抜けがらになったような、そんな気持ちです。
働きたくなくなったわけではなく、他の世界を見てみたくなったのと、予想以上に今の場所がハードであることに疲れてしまいました。これを逃げと判断する人もいるかもしれません。でもいいのです。誰も自分以外に自分の人生をやってくれる人はどうせいませんから。
次の仕事はマッサージとかやろうかなと思います。4年のとき、研修を受けて、一応店に出れるまでにはなりましたし。リラクゼーション関連の資格をとって、幅を広げてもいいのかなと思っています。
恋愛も、もしかしたら突然ぱっとやめてしまうかもしれませんね。今の彼のことはもちろん好きです。でも、やっぱりどこか不安なのです。それが、わたしが不安定だからなのか、本当は彼のことが好きではないのか、今、はっきりとわからないのです。
仕事と恋愛、どちらもどうなっていくかわからないという点で、"do or die" はまさに今の自分自身を表しています。
世の中はコロナで大騒ぎですが、同じくらい怖い病気はいっぱいあるし、事故とかの方が遭遇の確率高いんじゃないかと思うし、怖いことなんていっぱいあります。
正直、コロナにかまっている暇がありません。コロナだけが不安要素でうらやましいなとさえ思う時もあります。
まあそれは大げさですし、実際にかかっても困るのでこれくらいで自重しますが、今が転機であることは間違いないはずです。
これからも、Mにはわたしを導く存在でいてほしいです。
なにも、特別なことはいりません。
ただ、つながりがあれば、それでいいのです。

お互いの健やかな日々を願って
沙也加

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