オリンピックを楽しみにしている全ての人たちへ

ずいぶん大袈裟なタイトルで記事を書き始めてしまった。でも私は本当に、この通りのことを書きたいと思って今画面に向かっている。

この一年半、何度「どうしてこんなことに」と思っただろう。

オリンピックが日本に来ると決まった2013年。私は大学生で、大学のサークル活動で学内の部活を取材してスポーツ新聞を書いていた。
サークルの友人が「2020年は子供と一緒に見に行くからそれまでにまず結婚しないと」と言っていたのが妙に印象に残っている。
そんなふうに、みんなスポーツが大好きで、みんなスポーツ観戦が生活の一部だった。だから当然のように2020年を楽しみにしていた。
取材している選手の中に夢の東京五輪で活躍する人もいるかもしれないと思うと、記事を書く手に熱が入った部員もたくさんいただろう。

2019年、まずオリンピックに先駆けるようにラグビーワールドカップが日本にやってきた。
ワールドカップ開幕に合わせるように大団円を迎えたTBSのラグビードラマ「ノーサイド・ゲーム」の最終回番宣で、役者として出演していた元ラグビー選手の廣瀬俊朗さんが日テレ「しゃべくり007」に出ていた。日テレはラグビーワールドカップの中継権を持っていた。にしても、ライバル局のドラマの宣伝をするなんて、普通はありえない事だ。
世界ナンバーワンの大会が自国で開催されるということは、それだけの意味を持つのかとなぜかその時グッときた。
ワールドカップの期間中、ラグビー素人の私も熱狂に便乗し、日本の中継は欠かさず見て、秩父宮ラグビー場の近くのラグビーファンが集う居酒屋で中継を見たりもした。その試合はアイルランドに日本が勝利を収めた試合だった。
格上相手の勝利に興奮冷めやらぬまま店を出ると「オメデトウ、ジャパン!!」と声をかけられた。見ると隣のHUBのテラスで飲んでいた外国人の方だった。
「ありがとう!ウェアアーユーフロム?」と聞くと「ウェールズ!」とのことだった。ウェールズからわざわざ日本まで来てラグビーを見に来ている人がいること、日本の勝利を祝福してくれたことが嬉しくて、その日はウェールズという国についてずっと調べていた。本当はウェールズは「Cymru(カムリ)」という国であることも知った。

ワールドカップは大成功のうちに幕を閉じた。2020年、オリンピックが来たらいったいどんなことになってしまうんだろう。知らない国の人がたくさん来て、知らないスポーツのこともいっぱい知って、ここ日本で、世界中の人たちがスポーツの持つ力に元気を貰うのかと思うと胸が踊った。

でも2020年、突然世界は変わった。

1年延期されたことで、たくさんのアスリートが競技人生に別れを告げたり、怪我で出場できなくなった。逆に延期されたことで出られるようになった、調子を上げてきたアスリートもいる。
でも、きっとこの1年半、スポーツに関わる全ての人たちが、多かれ少なかれ、傷つき、悲しみ、不安な日々を送ったはずだ。

「なんでオリンピックだけ開催されるんだ」という世間の言葉が、一番私を暗くさせた。
その言葉の裏には、「みんなこんなに我慢しているのに」というニュアンスがあった。
その気持ちはよく分かる。感染対策の名のもとに、自分の生業、学業、趣味、そんな大切なものたちが奪われている最中に行われるビッグイベントに、ヘイトが向けられるのは仕方がないのかもしれない。
でも、私は好きなものがこんな風に世間から嫌われていくのを受け流すなんて到底無理だった。ある頃からニュースもTwitterのトレンドも見るのをやめた。

自分の興味が無いものも誰かにとっては命と同じくらい大事なのかもしれないんだから大切にしましょう。
そんな道徳の教科書に載っていそうな簡単なことに今更気づいた。
自分が傷つくことで、今まで他人を傷つけていたかもしれないことに気づけたのは、唯一私にとって良かったことかもしれない。

もっともっと、辛い思いをした人は大勢いるだろう。
周囲の理解を得られず、もしくは自主的に、現地に行ってスポーツの熱狂を味わうのを諦めた人。
好きな選手が、表舞台から退いてしまった人。
そもそも、表舞台すら準備されなくなってしまった人。

本当は、みんな笑顔で、スポーツから得られるかけがえのない喜びを、感動を、味わいたかった。
あれが私の好きな競技なんだよ。あれが私の好きな選手なんだよ。って、誇らしく感じたかった。
スポーツを普段から見ている人たちは、みんなそんな景色を夢見ていたと思う。

だから今、私は東京オリンピックを楽しみにしている全ての人たちとひとりひとりハグをして、「1年半、頑張ったよね」という言葉を送りあいたい。そんな気持ちでいる。

みんな傷ついた。
それでも今日まで歯を食いしばって生きてきた。
みんな最高に偉い。素晴らしいことだ。

政治家やマスコミや五輪を運営する人たちには言いたいことがごまんとある。
でもいよいよオリンピックがはじまるという今、私はもう何も言いたくない。
それよりスポーツを愛する仲間たちと心の中で円陣を組んで、一生懸命大好きなアスリートを応援しよう。大好きなスポーツに夢中になろう。そう心に決めている。

そしてアスリートの皆さんは、ただの1ファンでもこんなに辛い世界の潮流に、どれだけ心が痛んだことか。人生を賭して挑んできたはずの、スポーツというものそのものに疑問を抱くようなことさえもあったのではないだろうか。
それなのに今も、弱音ひとつ吐かずに前を向いて歩みを止めない選手たちを私はたくさん知っている。

先週の日曜日、男子バスケ日本代表はオリンピック前最後の強化試合で強豪フランス相手に金星をあげた。自国開催で44年ぶりのオリンピック出場が決まってから、バスケ選手たちはみんなこの舞台を目標にして成長を続けていたということが、ほんの数ヶ月前にバスケを知った私にも伝わってきた。そんな堂々たる戦いぶりを日本代表は見せてくれた。

試合後、主将の田中大貴選手が言っていた。

大袈裟じゃなくて、こういう状況だからこそ、スポーツが周りに与えられる力は絶対にあると思っています。

引用元

私も、スポーツの力を信じている。
人生でつらいことがあるとき何度も何度もスポーツに救われてきた。
だから私は何があってもアスリートのみなさんを応援して、背中を押す。
私が心の中で円陣を組んでいる、日本中のスポーツを愛するファンもみんな、きっと同じ思いだ。

がんばれ、全てのアスリートたち。
私は画面の向こうで手を叩き続けるよ。

2021.7.23

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