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微動だにしない男との接見記録⑨~最後の面会~

被告人I 無職 事件番号:令和2年(あ)第●5●号
強盗殺人・傷害・窃盗・覚せい剤取締法違反
検察官求刑:無期懲役 
現在上告棄却決定に対する異議申し立て中

9/29(火)がIとの最後の面会となりました。

当初もう確定しているだろうと思い諦め半分で接見申し込みしたのですがすんなりとブルーの番号札を渡されました。

もう確定しているだろうと諦めてたものですから刑務官の方に「本当にいいんですか?」と聞いてしまいました。

刑務官の方はいつも固い表情をされてるのですがそのときばかりは「大丈夫ですよ。良かったですね」と微笑みかけてくれました。

そのときのなんともいえない穏和な微笑が、こういったら怒られてしまうかもしれませんがチャーミングで今でも脳裏に焼き付いています。

Iとの接見はほとんどがブルーの札が示す8Fフロアでの接見でした。

余談ではありますがIとは27回接見したのですがそのうち17回が8Fフロア、7階がオレンジの札の4Fフロアで残りの3回がグリーンの札の10階フロアでした。

ピンクの札の6Fフロアは一度もありませんでした。因みにレッドの札の2Fフロアは女性被告人フロアとのことで当然通されることはありませんでした。

番号札を渡され待合室で待っている時間も、番号札を呼ばれていつものように金属探知機をくぐりエレベーターまでの長い廊下を歩く時間も、8Fフロアで待ってるときも今日が最後の面会だと思いましたので何を聞くかずっと考えてました。

事件のことを聞いても仕方ないしなと思いつつも接見室に入りました。

Iが接見室に入ってきました最後の面会だから特に記憶に残っているのか、Iも「今日が多分最後でしょうね」と微笑んでくれました。

Iの笑顔はなんというかとても茶目っ気がありますのでいつもであればこちらもつられて微笑んでしまうのですがこの日ばかりは何というかうまく微笑み返せませんでした。

少しぎこちなかったと思います。

「今日はいままでのことや今後のことについて聞きたいのですが、自分が聞くのも大変おこがまししいのですがIさんの人生を振り返ったときに仮に今回の強盗殺人が無罪かどうかは置いておいて結果として無期懲役じゃないですか・・・。どうしてこうなってしまったと・・・?」

「一つは自分に人を見る目がなかったということでしょうね・・・。自分が凄く人を簡単に信じてしまったと・・・。友人や知り合いにもYはどんだけお人よしなんだよと言われましたし・・・。それともう一つは自分は中途半端だったと・・・。ヤクザとして中途半端で堅気にもなりきれず・・・。」

「ヤクザとして中途半端とは?」

「うーん、例えばですけど自分は覚醒剤でも逮捕されてますけど、ちゃんとしたヤクザというか。まあヤクザがちゃんとしてるかは置いておいて、ヤクザでも入れ墨入れてない人ももちろんいますし、覚醒剤とかやってるヤクザの方が少ないですし、暴力沙汰おこさない人もいますし・・・」

「でもあまりにも無期懲役は重い・・・。非常に言いにくいのですが、だってもう人生・・・」

「そうですよね。人生終わりですよね」

Iは自分が最後までは聞きにくいことを自分から言ってくれました。ただ「人生終わり」というIの表情に悲壮感のようなものはありませんでしたのでそのことについて聞いてみました。

「でもIさんからは・・・。何というか絶望感というものが感じませんが・・・?」

「もう切り替えました。上告審で覆すというよりは逆に再審の方が望みあるのかなと・・・」

「上告審で主張を認めてもらうのも相当に厳しいが再審も非常に厳しい・・・」

「そうですね。ただまあ刑務所に入ったら入ったで何とかなるもんですよ。自分からも聞きたいんですけど傍聴席から自分の裁判を傍聴されてた方はどういう感想持たれてますか?」

「つまり運転者はIさんと思うか?Aさんと思うかということですか?」

Iは頷きました。自分は質問が唐突だったので少し驚きましたが周囲の人と話した本当の内容を正直にIに伝えました。

「うーん・・・。やっぱりAさんだと思うという人もいますね。・・・ただ手紙の内容がね・・・。本当に犯人じゃなかったらこういう内容の手紙書くかなという人もいました。だから半々くらいだと思います」

「嬉しいですね。そういう風に思ってくれてる人もいると思うと」

「ひょっとしたらですけど・・・。差し戻し審の裁判で裁判員の中にはIさんが運転してたんではないと思うという方もいらっしゃったんでは・・・」

「そうであればできれば公表して欲しいんですよね。こういう風に考えてる人もいたって。それって完全な有罪とは違うじゃないですか」

「それとこれからのことですが、自分は社会の代表でもなんでもないのでおこがましいですが、これからは社会にメッセージも残せなくなる何か伝えたいことはありますか?」

「正直に言うともう疲れたんですよ。もうずっと何年もこんなことやってるわけで・・・。こうして裁判傍聴してくれたりこうやってわざわざ面会に来てくれる人とかならいいですけど、まったく事件知らない人にまた最初から説明するのは疲れますよ・・・」

疲れますよというのはIの本音だと思いました。

「まあこういう結果になってしまったわけですけど、息子さんにはなんと伝えたいですけ?」

「こんなおやじでごめんなと・・・」

「前にも聞いたと思いますけど息子さんにはどういう風に育って欲しいですか?」

「元気に健やかに育ってくれればそれでいいです」

「仮にですけどヤクザになりたいと言ったらどうしますか?」

「そう決めたんなら頑張れといいます・・・」

Iがそういうとそろそろ時間ですと刑務官が告げました。するとIはいつものように深く頭を下げ「ありがとうございました」と告げて面会室を後にしました。






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