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#恋愛小説

小説『こんなとこにいるから悪いんだよな』

日当たりのいいバーの前に座っていると、若い男にいきなり「電気代払ってくれない?」と頼まれる。 『こんなとこにいるから悪いんだよな』  まだオープンしていない日曜のバーには、まだ始まらない映画の字幕だけ観ているような、じれったさがある。  バー「パラダイス」は、表参道から横道に一歩入ったところにある。店の前に、パラソルの下に、椅子が幾つも置かれている。黒く塗られた鉄の椅子は重くて、椅子を引くと、コンクリートの上をじゃらじゃら擦る音がする。  壮太は鉄の椅子に座り、タブ

掌編小説『そんなことしたら寂しくて死んでしまう』NEMURENUバックナンバー Vol.1

   女って馬鹿ね。まだ諦めない。祈ってる。神様なんて信じてないのに。和光の前で心臓がガクって跳ねて、うずくまりたくなって、でもそれはできなくて、レオナには行く所がある。死ぬ前に。  レオナが崇拝するデザイナー。最期に覗きたかった。銀座の本店。閉店してるのは知ってて、でも閉店してなくても、レオナは中に入らなかった。シャネルスーツの金色のボタン。そこにスポットライト。  発光する金色。その上をなにかが回っている。そんなわけないのに、そんなことがレオナには時々ある。死んだデザイ

今まで書いた小説の中で私が一番好きなもの『彼と俺の結婚式には天井から花をたくさん吊るすの』

1 ずっとストレスが溜まってる。隣のベッドのヤツが気に食わない。ソイツはイケメンの大学生で、ソイツはしばらくずっとハイだから、すぐ俺に手を出してくる。キスされるぐらいは構わないし、胸開けられて乳首舐められるくらいも構わないし、でもさっきはパンツに手を入れられて、俺はそれは嫌だったからひとりで病室を抜け出して、食堂の隅っこの看護師に見付かりにくいとこに座ってた。巡回はさっき終わったばっかだから、1時間くらいはここに座ってられる。あの大学生、イケメンなのはいいけど、時々巨乳の気持