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小説『サラブレッド』

「オニイサンってさ、なにしてる人?」 「え、オレ? 警察」 「ふーん、いい身体してると思った……。あれ、アタシって、逮捕されちゃうの?」 「なんで? なんにも悪いことしてないだろ?」 「そうよね。あ、でもコレって、御金貰ったら売春よね」 「じゃあ、御金上げないから」 「……え、ソレはヤダ」 「逮捕して欲しいの?」 「そうじゃないけど……あんまり明るいところで見たら恥ずかしい。嫌でしょ。臭うでしょ」 「いいじゃない、臭うの」 「自分でもさ、夏とか短パンで床に座ってて、立膝とかで

小説『超純水みたいに』

     一、    血の気が引くって、こういうことを言うんだろうな……。銀座通りを西に向かって歩く。ちゃんと歩いている。しかし、ほんとは歩道にへたり込んで頭を抱えたくなる気分だ。向こうから男が歩いて来る。背の高い、人生で成功した男。俺のバーの客だ。軽く会釈する。向こうは気が付かない。俺が変わってしまったからだ。この数カ月の間に、すっかり老け込んだ。  俺の名は川辺正義という。俺のバーを兼ねた小さなビストロ。潰してしまった。あとにはなにも残らなかった。さっき、自己破産弁護士と

小説『こんなとこにいるから悪いんだよな』

日当たりのいいバーの前に座っていると、若い男にいきなり「電気代払ってくれない?」と頼まれる。 『こんなとこにいるから悪いんだよな』      まだオープンしていない日曜のバーには、まだ始まらない映画の字幕だけ観ているような、じれったさがある。  バー「パラダイス」は、表参道から横道に一歩入ったところにある。店の前に、パラソルの下に、椅子が幾つも置かれている。黒く塗られた鉄の椅子は重くて、椅子を引くと、コンクリートの上をじゃらじゃら擦る音がする。  壮太は鉄の椅子に座り、タブ