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#BL

小説『ゴーストの凍ったシャワー』18歳以上向け。閲覧注意。

      第一章  仕事帰り、桜の咲く公園を通った。ベンチに座った。突然、強い花の香りがして、誰かに首筋を触られた。凍ったように冷たい手。飛び上がって振り返った。そこには誰もいない。  二度目は眠りに落ちた瞬間。冷たい手がTシャツの中に滑り込んだ。俺の乳首をいじっている。驚いて目を覚ます。花の香りだけが残った。あの時は公園の花の匂いだと思った。深いスパイシーな香りが絡む。男性用のオードトワレ。  三度目もベッドに来た。手は俺のペニスに触っている。もう一つの手が尻

小説『雄しべ達の絡まり』

あらすじ/美術大学の講師、徹は実は売れっ子の扇情小説家。あるカフェでウェイター、北原を見初め、そこに通い詰める。ネコが死んだといって号泣する北原。徹は彼に近付くチャンスをつかむ。 『雄しべ達の絡まり』 1 しばらく気になっている青年がいる。でもここに通っているのは、彼が目的ではない。このカフェはランチタイムを除けば静かだし、仕事をするには丁度いい。と、カッコよく言ってみたけど、やっぱりそれは嘘で、俺はその青年が目当てだ。初めてここに来た時から目を付けていた。もうひと月通っ

小説『品川から大宮まで』

 秋で、本格的で、赤い葉が上からボサボサ落ちて来る。学校の昼休み。僕はベンチに寝て龍馬の膝に頭を乗せる。彼は僕の巻き毛を弄ぶ。僕は前の学校を退学になってここに来た。龍馬のことは好きでも嫌いでもない。前の学校も男子校で、厳しくて生徒同志の恋愛は絶対だめ。相手は水泳部の部長で、僕は濡れながらプールサイドにいて、彼がプールの中にいて、カッコいいキスをしてて、それを顧問の先生に見られた。龍馬、僕、昨日大変なことになっちゃった。試験勉強で徹夜して、帰りに眠くて寝ちゃって、こっから大宮ま

小説『こんなとこにいるから悪いんだよな』

日当たりのいいバーの前に座っていると、若い男にいきなり「電気代払ってくれない?」と頼まれる。 『こんなとこにいるから悪いんだよな』  まだオープンしていない日曜のバーには、まだ始まらない映画の字幕だけ観ているような、じれったさがある。  バー「パラダイス」は、表参道から横道に一歩入ったところにある。店の前に、パラソルの下に、椅子が幾つも置かれている。黒く塗られた鉄の椅子は重くて、椅子を引くと、コンクリートの上をじゃらじゃら擦る音がする。  壮太は鉄の椅子に座り、タブ

小説『どこに行ってしまうのか』

前編  起きた時から頭の中を、アフォリズムや、昔読んだ小説の断片が浮かんで消える。そういう日もあるんだろう、と、気にしないようにしながら、やはり浮かんでくる。拓海の頭をその一つのことが離れない。エスカレーター。あれはどこへ行ってしまうの? あれはね、ぐるぐる回っているのよ。村上龍の完璧な文章。どうにもならない絶望。重い夜と予想の付かない朝が始まるその中間の時間。東京にもこういう暗闇がある。拓海は機材と一緒にタクシーの中にいた。  客の朝食が始まるのは六時からだと言われた。二階

今まで書いた小説の中で私が一番好きなもの『彼と俺の結婚式には天井から花をたくさん吊るすの』

1 ずっとストレスが溜まってる。隣のベッドのヤツが気に食わない。ソイツはイケメンの大学生で、ソイツはしばらくずっとハイだから、すぐ俺に手を出してくる。キスされるぐらいは構わないし、胸開けられて乳首舐められるくらいも構わないし、でもさっきはパンツに手を入れられて、俺はそれは嫌だったからひとりで病室を抜け出して、食堂の隅っこの看護師に見付かりにくいとこに座ってた。巡回はさっき終わったばっかだから、1時間くらいはここに座ってられる。あの大学生、イケメンなのはいいけど、時々巨乳の気持