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なぜ仕事を抱え込んでしまうのか?“手放せない”リーダーの4つのタイプと処方箋

コーチングを通して次世代リーダー育成を支援する、35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)CEOの桜庭です。

これまで多くのエグゼクティブコーチングを担当してきた中で、「自分が動かさないと何も進まない」「部下に任せるのが不安」「自分でやった方が早い」といった考えを持つリーダーを多く見てきました。しかし、こうした「仕事の抱え込み」は、リーダー自身の負担を増やすだけでなく、組織全体の成長を阻む要因にもなりかねません。

本記事では、そんな仕事を手放せないリーダーを4つのタイプに分類し、その背景にある心理と解決策を深掘りしていきます。


タイプ1:存在意義がなくなる不安に苦悩する「職人タイプ」

技術職に代表されるように、専門スキルを極め、一つのことをコツコツと積み上げてきた人によく見られるのがこのタイプです。職人タイプの人は仕事そのものが大好きで、いわば「プレイヤー気質」。部下を持ちたいと思わず、昇進にもあまり興味がない人も少なくありません。

しかし中には、階級が上がるにつれて会社からキャリアアップを求められ、自分が望むキャリアとのギャップが生まれてしまい、相談を受けるケースがしばしば起こります。

リーダーとして組織を牽引する立場になれば、自分のスキルを活かしながらチーム全体を成長させることが求められます。一方で現場で培ってきたスキルや顧客との信頼関係は、本人にとってかけがえのない資産です。チームリーダーになったとしても、現場での仕事にも関わりたいと考えるかもしれません。

会社から期待されていることと自分が望むキャリアとの間で葛藤を抱え、仕事を手放すことに強い抵抗感を持つのが、このタイプの大きな特徴です。

タイプ2:だって自分が一番得意なんだもん!「承認欲求タイプ」

自分の強みに自信を持ち、それを認められたいという願望が強いタイプです。いわば「エゴ」が強く、自分が得意なことで頼られたいという欲求が根底にあると言えるでしょう。

このタイプの人は、役職が付いたり立場が変わったりと、これまでと違うポジションを会社から与えられると、自分の得意なことを奪われるような感覚に陥りやすく、抵抗感を示しがちです。自分の成果を認められたいという気持ちが強いため、「仕事を部下に任せることで、自分の存在意義を失ってしまうのではないか?」と不安に感じるのです。

また自分の仕事に自負があるゆえに、「苦労して引き継いだ仕事をまた誰かに託すなんてできない」というように、過去の経験から、人に仕事を委ねることを恐れるケースもしばしば見られます。

タイプ3:仕事の渡し方がわからない「小心者タイプ」

仕事を任せたいと思いつつも、積極的に誰かに仕事を頼むことが苦手で、うまく業務を移譲できないのがこのタイプです。

スキル不足の問題であれば、業務整理の方法や、タスクリストの作成など、具体的なノウハウを身に着けていけば良いのですが、多くの場合、その裏側には心理的な壁が潜んでいます。

例えば、人に何かを頼むことをおこがましいと感じたり、「頼んだら迷惑をかけてしまうのではないか」「嫌われたくない」と不安に思ったりと、様々な心理が働いていることがあります。このような人は、心の奥底では「私が犠牲になればいい」という「犠牲者マインド」を持っていたり、「私が大変な仕事を肩代わりして、みんなを助けている」という「ヒーローマインド」を持っていたりすることもあります。

さらに深層心理に迫っていくと、「仕事を渡せば自分の存在意義がなくなってしまう」という不安が隠れていることもあります。表面上の理由は異なっていても、根底にある感情は他のタイプと共通しているケースも少なくありません。

タイプ4:自分の基準を満たしている人にしか渡せない「完璧主義タイプ」

仕事を完璧にこなすことこそが自分の価値だと考えているため、部下に仕事を任せることに抵抗を感じるタイプです。

自分に厳しく苦労もしてきた分、仕事のクオリティが自分の中の「合格レベル」に届かない限り部下に任せることをためらいます。また、部下の仕事に口出しをしてしまい、結果的に部下のモチベーションを下げてしまうこともあります。

必ずしも「自分の基準を満たす人にしか仕事を任せられない」と意識しているわけではありませんが、心の中では高い基準を設定しており、その基準を満たせない人には仕事を任せません。

前回の記事に登場した佐藤さんはまさしくこのタイプでした。

仕事が行き詰ったら「こうあるべき」を見つめ直すが吉

このように、一言で「仕事を手放せない」と言っても、人それぞれ抱える背景や考え方は複雑です。

「仕事は完璧にすべき」「人に頼らず自分で完結すべき」など、私たちは過去の経験や周りの人から教えられたことを基に、無意識のうちに「こうあるべき」という考え方を身につけています。こうした「思い込み」は、自分たちの見方や行動を大きく左右します。

普段は問題なく機能しているこれらの「思い込み」も、仕事や環境が変化した際には、私たちの考え方や行動を大きく制限してしまうことがあります。例えば、「自分は〇〇が得意」だと思うあまり、新しい挑戦の機会を逃してしまったり、周りからも声がかからないということもあるでしょう。

「今までうまくいっていたことが、突然うまくいかなくなった」と感じた時は、自分の「思い込み」を見つめ直すことが大切です。その「思い込み」が、今の自分にとって本当に必要で、有益なものなのかを一度冷静に考えてみましょう。

手放すことは、新しく得るための余白をつくること

しかし自分を客観的に見つめ、「本当に仕事は完璧にすべきなんだっけ?」「自分で完結すべき何だっけ?」と冷静に対話することは簡単ではありません。一度固まった考え方を柔軟にするには、ある程度の訓練が必要です。

コーチングでは、第三者の視点からこうした無意識の思考パターンに気づき、解きほぐすサポートを行います。クライアントの話に耳を傾けていると、「どうしてこんなに手放せないのだろう?」「何かを手放すことに、どんな不安があるのだろう?」といった疑問が自然と湧いてきます。コーチは、こうした問いを投げかけることで、クライアント自身が心の奥底に隠された思いに気づくことができるようサポートします。

「ストップ・キープ・スタート」というフレームワークは、そんな新しい視点を持つための具体的な方法です。

①ストップ: 手放すものを明確にする。
これまで大切にしてきた価値観の中で、手放すものを具体的に書き出してみましょう。
完璧主義タイプであれば「完璧を求める」承認欲求タイプであれば「常に認められたい」 というように、自分自身を縛り付けている考え方を手放すことで、より自由な発想ができるようになります。

②キープ: 残したいものを明確にする。
手放す一方で、これからも大切にしたい価値観も明確にしていきます。
例えば、完璧主義者は「高品質な仕事をする」という価値観をキープする。
承認欲求の強い人は、「達成感を得たい」というニーズをキープする。

③スタート: これまでの枠組みから脱し、新しい視点で考える。
これまでの自分という枠組みから抜け出し、新たな可能性を探求してみましょう。
例えば、「職人タイプ」の人は、こだわりの強さを手放すことで、「柔軟な対応ができる人」や「チームで働くことができる人」といった、新たなラベリングを得られる可能性が広がります。

「承認欲求タイプ」の人は、「自分が一番得意なんだ」という枠組みから抜け出すことで、「組織のことを考えて動ける人」だとか「リーダーシップを発揮している」といった印象を獲得するかもしれません。その結果、自分が想像もしてなかったような仕事を任されるという可能性も開けるでしょう。

このフレームワークを通して、「手放す」ことは「失う」ことではなく、「得る」ことでもあると気づくことができるでしょう。

どのような仕事を手放し、どのような可能性を生み出すのか。

この問いに対する答えは、人それぞれです。しかし、勇気を持って「手放す」ことで、あなたの人生は大きく変わる可能性を秘めています


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。“手放せない”リーダーの4つのタイプと処方箋の考え方が少しでも皆さんのチームビルディングのお役に立つことができれば、とても嬉しいです。

今後も私のコーチングセッションの体験談やコーチングのテクニックをお伝えすることで、みなさんが組織のリーダーとして活躍するための参考になればと思っています。不定期にはなりますが、次回の投稿もぜひお楽しみに。

【35 CoCreation合同会社】
35 Co Creation(サンゴ コ・クリエーション)合同会社は、「ヒトの心・身・信の3つの領域の真を統合することを通して、リーダーシップの進化を大胆に促進し、地球を次世代へ手渡していくリーダー人材を開発する」をミッションに掲げ、日本初上陸オントロジカル・コーチングのアプローチに基づいた組織開発、次世代のリーダーシップ開発、人材育成、組織風土改善を支援するコーチング事業を運営しています。

オントロジカル・コーチングは、自分自身の価値観・信条・倫理観、思考傾向など自身の在り方を理解することで行動習慣を本質的に変える、ヒト起点の改革を支援します。この改革を通じて、組織における価値創造、人材育成、組織改革を実現します。

公式HP:https://35cocreation.com/

【桜庭 理奈(さくらば りな)】
35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)合同会社 CEO
元GEヘルスケア・ジャパン株式会社アジアパシフィック地域統括のHRビジネスパートナーとしてGEヘルスケア・ジャパンへ入社後、人事本部長、執行役員を歴任。2020年に35CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)合同会社を設立し、多様な業態や成長ステージにある企業で人事部長不在の企業間で、シェアドCHROサービスを開発提供し、経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、アドバイザリー活動を伴走型で支援。経営者や人事担当者向けの執筆コラムも多数出版。国際コーチング連盟認定PCCコーチ。一般社団法人日本オントロジカル・コーチング協会 代表理事。1on1コーチ、チーム・コーチ、ヘルス・ウェルネスコーチとして活躍中。愛知県出身。
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