ぼくのスーパースペシャルな日
あと、すこし
あと、1日。
ついに、明日だ。
ぼくは、冷ぞう庫にはってあるプリントを穴があくほど見つめていた。ぼくだけしかいない台所で。
毎日毎日、楽しみで楽しみでたまらなかった。
何がって?
給食だよ。給食。
しかも、スペシャルな給食の日なんだ。
プリントは給食のこんだて予定表。
その特別な日には大きく星マークが書いてあるんだ。
ぼく、3年1組でいちばんの食いしんぼう。
体も大きい方で、名前も「大(だい)」っていうんだ。
ニックネームは、だいふく。
ぼくの学校
「なあ、だいふく、明日のスペシャル給食、なんにしたの?」
今日の朝、石をけとばしながら学校に向かっていると、後ろからガクが聞いてきた。
「こんどの給食考えるの、だいふくの番だったじゃん?
お前、オレらのクラスでいちばん食いしんぼうだからさあ、スッゲー楽しみにしてる。」
ぼくは、ニコニコして答えなかった。
「お楽しみに。」
と言うと、また石にしゅうちゅうした。
ぼくの行く学校は、その月の最後の金曜日に『特別な』給食が出るんだ。
生徒が希望を考えて、紙に書いて出す。
自由に書いていいんだ。
アレルギーがある子とかは、参加できない場合もあるけど、だいたい希望通りになる。
月に一回だし、えいようのバランスはこのさい無視無視!
これまでには、こんな給食があった。
チョコを心から愛する5年3組のレイナさんからのリクエスト。
『チョコレートだらけメニュー』
↓
チョコレートのとろとろスープ
ビターチョコのホットサンド
チョコディップのスティックサラダ
ミロ
ランドセルにねことうさぎのマスコットをいっぱい下げている1年2組のみゆさんからのリクエスト。
『全部ピンク色メニュー』
↓
ビーツポタージュスープ
サーモンのソテー
ラディッシュと赤キャベツのサラダ
いちごミルクゼリー
外国から転校してきた6年1組の聡太(そうた)さんからのリクエスト。
『手で食べる日』
↓
目玉やきがそえられたやきめし(ナシゴレン)
エビやきゅうりをうすいシートでまいたもの(生はるまき)
土の小さなコップに入ったこうちゃ(チャイ)
これは、ガクからのリクエスト。
『ちがう場所で食べる日』
↓
それぞれのクラスで好きな所に行って食べてよかった。
ぼくたちのクラスはなぜか、校長室に入って、食べた。
ソファにすわるやつ。
校長先生の席にすわるやつ。
れきだいの校長先生の顔マネをするやつ。
リクエストは、4月にくじ引きして当たった人が出せるんだ。
今月はぼく。いよいよ明日だ。
スーパースペシャルな日
さあ、今日だ。
ついにこの日が来た。
僕がリクエストした給食をついに食べられるんだ。
朝はこうふんしてほとんど食べられなかった。
教室につくと、みんなにかこまれた。
「だいふくー、楽しみにしてるぜ」
「さぞかしグルメなんでしょうね」
ぼくはニコニコして何も答えずに席についた。
1時間目、2時間目、3時間目、4時間目・・・。
その時を待った。
そして、給食。
給食当番が配ってくれた、お皿に乗っていたもの。
カレー
ポテトサラダ
バナナ
「えーー、普通(ふつう)!?」
というどよめきがおこるなか、ぼくは大大大こうふんしていた。
いただきます!
まず見た目から。
ニンジンはうすい輪切りだ。まるいのがゴロゴロ。
ジャガイモはサイコロのかたち。
玉ねぎのすがたはない。とけてるようだ。
お肉もスプーンでつつくとほろほろになっている。
口に入れてみる。
大きくすくいとってスプーンを口へ。
あぁ。
おかあさんが作ったカレーのあじだ。
おかあさんのカレー、ちっともからくないんだ。
でもなんだかあまいようなすこしピリッとくるような色々なあじがくみあわさっていてあきないんだ。
牛のスジとかスネとかを台所で長ぁーくにていたとおもう。
リンゴをすりおろしたり、南の国のスパイスをいれたりしていた。
つぎは、ポテトサラダを口に入れる。
おかあさんが作ったポテトサラダのあじだ。
このポテトサラダも、りんごとほしぶどうが入ってる。
おかあさん、いつも入れてくれるんだ。
ポテトがねっとりしすぎないように、マヨネーズすくなめでお酢(す)を入れるのがコツって言ってたよ。
ふいに頭の中に、おかあさんが湯気(ゆげ)でもわもわする台所に立っているすがたが見えてきた。
ほうちょうを持つ細い手首。
ネコのにくきゅうが足のうらがわについたスリッパをはいている。
そして、胸(むね)に『インド人もビックリ!』と赤い字で大きくプリントされている黄色のエプロンをしているんだ。
遠くの方で校内放送が何かを言っていたけど、
ぼくは食べるのにしゅうちゅうしていて聞こえなかった。
『今日は月に一度の特別な給食の日です。
今月は3年1組 田中 大くんのリクエストでした。
大くんのリクエストは「おかあさんのカレー」。
大くんのおかあさんは、今、病院に入院されています。
今回、リクエストに応(こた)えるため・・・、 』
給食をモグモグだいじにかみしめていると、黒板の字がユラユラと見えにくくなってきた。
ずーっと食べていなかったおかあさんの味が体に入ってきたからかなあ。
あれれ?
がまんしてたんたけどなあ。
ぼくは出てきたあたたかい水をそうっと指にとった。
食べ終わったあと、またまたクラスのやつらにかこまれた。
「だいふく〜、お前のかあちゃんのカレー、うまかったぞ!」
「肉がやわらかかったぁ」
「ポテトサラダもおいしかったわよ」
みんながくちぐちにほめてくれた。
「そうなんだ。
ぼくのおかあさんのカレー、おいしいんだ。
だからぼく、食べたかったし、みんなにも食べてほしかったんだよ!」
ぼくはニコニコを大サービスした。
特別な日のおわりに
授業が終わって教室を出ると、くつ箱のところにおとうさんが待っていた。
「大くん、今からおかあさんに会いに行こう!」
「えっ、本当?」
病室でおかあさんは、体をおこしてすわっていた。
いつもよりも顔色がよかった。
「食べた?」
「うん。おいしかった。
でも、どうやって作り方を教えたの?」
「うふふ。魔法(まほう)だよ♪」
おかあさんはそう言うと、えいっとぼくの手をひっぱるとだきよせてギューっとしてくれた。
おかあさんからは薬のにおいだけじゃなくて、なぜか、ほんの少しだけカレーのにおいがした。ベッド横のイスに黄色い何かがおりたたまれているのが目のすみっこに見えたような気もする。
「大くん、おかあさんが退院(たいいん)する日ね、決まったよ」
背中の方からおとうさんの声がした。
やっぱり、今日はスーパースペシャルな日だな。
ぼくは、おかあさんに負けないようにおかあさんをギューっとしながらニコニコした。
おしまい
ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。