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あなただけの夏 【Omnibus Soundtrack】


葉っぱと葉っぱの重なる間から光が差し込んでいる。葉にはくっきりと葉脈が浮かび、向こう側の光をそのまま通しているかのように透明に見えた。私が小学生の時、教室のまん前にヘチマ棚がしつらえられていた。教室にいると、へちまのカーテンの内側にいるみたいだった。ヘチマには雄花と雌花があって、雌花には受粉する前から萼の下にうぶ毛だらけのミニヘチマがくっついている。それを探すのが大好きだった。

葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ、雄花、つる、茎、葉っぱ、雌花

つる、雄花、葉っぱ、葉っぱ、雌花、雌花、、葉っぱ、葉っぱ

ジリジリと照りつける太陽をヘチマの内側から感じていると、そこは一つの世界だった。


夏が来る。


ふくらはぎについた砂は払っただけてはなかなか落ちなかった。サンダルと足の裏とのすき間にも細かな粒々が感じられて、砂が海から追いかけてきているみたいだった。とうもろこしやナス、ピーマンをひっくり返しながら、お肉が焼けるのを今か今かとチラ見して、鼻いっぱいに香ばしい炭の匂いを吸い込んでみる。思いのほか、身体は気だるく重たくなっている。普段は服で隠れている背中やお腹や太ももをふんだんに太陽に当てたから。そして、じゃぷんじゃぷんと打ち寄せてくる動きのある水の中に身体を浸していたから。
「もうそれ焼けてるよ」
って声をかけてくれた友達は、鼻のてっぺんが焼けて赤く光っていた。
「海って体力持ってくねー」
この後は花火だ。


夏が来る。


我先に走る。
目指すは水道の蛇口。
何度も頭にチラついていた。
水、水、水、水、水!
「コーチさあ、練習最後にTT(タイムトライアル)入れるんの、どーいうつもりだろね?」
「お前の根性見せてみろ?じゃね?」
疲れきっている時こそ、コンディションが悪い時こそ、おのれの限界を知るためにタイムを計るべきなのかもしれないけど、うだるようなまとわりつく湿気の中、ビショビショに汗をかいているのに身体はカラッカラで、水のことしか考えてなかった。

焦る手つきで蛇口を全開にし、水を放出する。

ぬるいのに、美味い。ひび割れた唇、ベタベタの舌、乾いた歯、きしむ喉、全身で、飲んだ。


夏が来る。


ガラスサッシを一枚隔て、外は灼熱地獄らしい。
西日の照り返しでベランダが真っ白に見える。
目を室内にもどすと、網膜に焼き付いた光で、一瞬、視界に緑のもやがかかり何も見えなくなった。足元に落ちているトランクスを拾うと、タオルケットにくるまって寒い寒いと縮こまっている彼に渡した。そのまま、手を引っ張られて、タオルケットの中に巻き取られた。


夏が来る。


大きな深鉢には水がたっぷり。氷もたくさん浮かんでいる。白い細い麺がうねる中にひとすじふたすじ、うす緑とうすピンクの色つき麺が泳いでいる。姉妹で競うようにして色つき麺を掬い取って食べた。食卓には切っただけのきゅうりとトマト。母が畑で育てすぎたやつ。お化けみたいに大きくて、ソフトボールを二つくっつけたお尻みたいな形。きゅうりは直径が5cmくらいあるから、縦半分に割って種部分をこそげて食べる。もはや瓜だった。
「もー、毎日毎日、この組み合わせ。飽きたぁ」
とぶつぶつ言いながらも、味わっていた。歯を押し返してくるトマトの皮の弾力。太陽を閉じ込めたような甘み。絞ったら水がしたたるのではないかというほどのきゅうりの瑞々しさ。


夏が来る。



🍉



私の横で寝息を立てている今年10歳になる娘。
これからどんな夏を過ごすんだろう。
全身で感じて欲しい。
あなただけの夏。



私の脳内の夏を
オムニバスsound trackで
お送りしました




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ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。