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伝える勇気

仕事に関しては先の先までスケジュール管理して最短で無駄なく効率的にすすめるたちだ。職場では結構シュッとしてて顔に感情を出さない人の部類である。

それだと伝わらない。
周りから大丈夫な人と思われてしまう。

何が伝わらないかって?
「焦り」である。

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娘のハトちゃんが保育園から小学校に上がるときに、勤め先の人事部への告知として書いた作文がある。
新年度へ向けた調書なのだが、
「子どもファーストで行きます!」
と熱く伝えたものだ。
「配置換えは無理です」
とも。


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 娘が4月に小学校に入学します。その娘は、◯月に発達障害の一種である自閉症スペクトラムと診断されています。そこで入学後は、特別支援級に入れるように手続き中です。
 娘は、新しい環境にさらされると極度の緊張から乳児のようになります。先生からの指示が耳に届かないこともあります。定型発達の同級生と比べて、出来ないことがたくさんあります。各種行事や授業参観などでフリーズしてしまいます。とくに環境の変化を極度に恐れる子供です。
 健常児の子育てと違って、保育の現場(今後は学校)と連絡を取り合うことなどで心的ストレスも多く、また娘の予期できない行動にダメージをうけるシーンが多々あります。
 そんな中異動してしまうと、新しい職場で人間関係を構築し、業務を覚えていくことに必死になることで、娘の大事なサインを見落とす可能性があります。あせりから娘をせかしてしまって、娘がSOSを出せないという、最も陥りたくない状況になってしまうことを恐れています。
 入学という娘の人生の一大事に、娘が戸惑い助けて欲しいと思う日があるかもしれません。
 私は、一人の母として娘の「助けて」を受け止めてあげたいのです。「助けて」と言いやすい環境を整えてあげたいです。そのためには、自分の心の余裕が不可欠であると考えます。


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「甘えている」
と、お叱りを受けるかもしれない。
「世の親はみんな、小1の壁は越えてきているじゃないか」
と。

しかしながら、私達親子にとって、その壁は高く厚く立ちはだかっていて、越えるには後ろから押し上げてくれる人と上から引っ張ってくれる人が必要だった。

私はこの壁を越えるために、思いつく限りのありとあらゆるところに働きかけをした。
たった一人の守りたい人がいるのだ。
小学校にソフトランディングして欲しいのだ。
その一心で。

目の前に業務がある。
これまで、一人で締切前までに終わらせてきた。
これからも、終わらせることができる。
一見、業務遂行の外観は何も変わらない。
でも、その遂行の陰にひりつくような焦りや、手からすり抜けてしまう掬い上げたい子どもの気持ちがあるのだ。

さぼりや、手抜きではなくて、できないことがある。

それを周囲に伝えたかった。

伝える勇気を持つ。


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こんなことがあった。

月に一度の報告書締め切りに向けて、私は動いていた。
それは割とたくさんの行程をへて数値などを抽出し、誤りがないか検討をし、アウトプットも効果的に行う必要があるという、まあまあのボリュームがあるものだった。

その締め切りが3日早まった。

たった3日と思われるかもしれない。

私の業務時間と通勤時間と家事時間と睡眠時間は、ブロックのパズルのように密接にくっついてテトリス状に積み上がっており、ひとつが狂うと全部組み直しなのである。

私は間に合わせた。

でも、PCのディスプレイを凝視する視界が少し揺らぐくらいには動揺していた。人知れず、泣いた。

そして、提出した相手から言われたのだ。
「取りまとめの締め切りさあ、3日早めたじゃん、あれ私が休みを入れちゃってねー。その前に終わらせてしまいたくて。」

その人に、悪気はない。
なんならめっちゃ残業して夥しい案件をどんどん捌いていくバイタリティーに溢れた出来る人である。

業務にさける時間が湯水のようにある人は、私のように時間がテトリスになっている人のことを想像しにくいのだなあー。
そう気づいた瞬間であった。


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人事部へ書いた手紙を発端にして、上司や同僚にもハトちゃんの特性とそれにかかわる私の葛藤や焦りを話す機会を得た。今も、私の仕事のチームは雑談の中で子供のことを聞いてくれる。

「子供がいるのかいないのか」
「何歳の子供がいるのか」
すら知らない同僚からは、サポートは得にくい。
ふだんからプライベートなことも、お互いに普通に構えず話せる間柄になってると、最強。

仕事をしながら「なんでだろう?」と独りごとを言ってしまうと、隣のデスクの同僚は、テツandトモのあの♾インフィニティみたいな手の動きをして応えてくれる。

ミスの説明をうけ「間違えることあるよ、人間だもの」って言ってたら、通りかかった同僚に「みつをかよ」ってツッコミを受けたこともあったな。

プライベートのアウティングには迷いがつきものであるが、私は、勇気を出すことにして正解だった。

たくさんの人のフォローのおかげで、私の顔に笑顔がもたらされ、今日も、ハトちゃんは笑顔の母に送り出されて学校へ行った。




(追記:小2になるタイミングで配置換えを受命しました)


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THE NEW COOL NOTER賞の頑張る人部門で受賞いたしました。




ハトちゃん(娘)と一緒にアイス食べます🍨 それがまた書く原動力に繋がると思います。