短編小説『一人旅』
久々の一人旅。行きたいのは、とある喫茶店だけ。
創業85年の老舗喫茶店で、旅行雑誌や旅行サイトに絶対載っている。私が住む県に、昭和初期に創業した喫茶店などない。
いざ到着すると、歴史に圧倒される。入口のタイル、瓦、『路地』と書かれた木製の看板。渋い。すんごい渋い。
観光客と言わんばかりにスマホで写真を撮った後、いざ中へ。おお、渋い。店内はもっと渋い。
2階建ての喫茶店。迷わず階段をのぼる。1階にはお客さんがいたが、2階は貸切状態。ツイてる。
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ふかふかのワインレッドの座面、焦げ茶色の脚。何人がこの椅子に座ったんだろう。
やがて運ばれてきたコーヒーカップも、渋い。一面に薔薇が描かれて金縁。スプーンも金色。
ここに来たら、カフェオレを飲むしかない。一口飲むと、ふわっとした甘さに癒やされ、今年のいろいろが消えてゆく。
机も時計も照明も天井も壁も、何を見ても歴史を感じる。一人で来て良かった。じっくり味わいたい。
サポートしてくださった分は、4コマに必要な文房具(ペン・コピック等)やコーヒー代に使います。何より、noteを続けるモチベーションが急激に上がります。