短編小説『明るい穴』
「なんかさ、怖い。黒い飲み物」
モモは高校からの親友で、25歳の今もたまに変わったことを言う。
「怖い?どこが?美味しいよ、ブラックコーヒー」
「穴みたいで怖い。アサコ、穴飲んでるみたい」
このカフェは、モモと近況を話すためによく来る。モモは紅茶ばっかり。
真っ白のマグカップに注がれたコーヒーは、確かに黒にも見える。でも穴に見えるかなあ。
「それよりさ、最近モモどうなの?いいことあった?」
「何、ミスドみたい。いいことあっるっぞーミスタードーナツ」
「懐かしい。あったね、CM」
「おっかしー。ドーナツも穴あいてるし。今日、穴の日?」
「もう!穴はいいから。どう最近?」
「仕事やめた」
「えー、またー?」
モモは年1ペースで退職。
「仕事はいいの。ネットで絵を売ってみた」
「すごい!見せて」
スマホを見たモモは、急に立ち上がった。
「さっき売れた!1万円!」
「え!やったじゃん!」
書類まとめるより、そっちのほうが似合ってるよ。
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