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短編小説『喫茶 まる』

アーケードの路地裏に、ぼんやりとオレンジの灯りが見えた。バーだろうか。

入り口の横に、『喫茶 まる』と週刊誌ほどの小さな看板。驚いた。深夜の喫茶店か。飲み会の酔いを覚ますのにちょうどいい。


中に入ると、格闘家か?と思ってしまう大男がカウンターに立っている。奥のテーブルには女性三人。

「いらっしゃいませ」
とその大男は声をかけ、メニューを渡してきた。

「ブレンドと…あ、生ハムサンドのハーフ」
「かしこまりました」


カウンターに座り店内を見回すと、ここは以前バーだったと分かる。何せ、バー時代の写真がある。渋い爺さんがきっと、前の持ち主だろう。

「ここは昨年までバーで、閉店する前に私が譲り受けたんです」

大男はカフェを開くのが夢だったが、体格を気にして諦めていた。閉店を考えていた爺さんに後押され、喫茶店を開いたらしい。


「生ハムサンドはバーの看板メニューでした」

優しくて誠実な味だ。俺もこんな仕事しなきゃダメだな。



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