短編小説『偶然の交差点』
「ほんの数時間前は他人だったのに、不思議ですよね」
そう。僕たちは数時間前まで、名前も住んでいる場所も知らなかった。
雑多に人が行き交う、交差点ど真ん中のチェーン店カフェ。
数時間前に落とした僕のiPhoneを拾ってくれたのが、今目の前にいるミナミさんだ。仕事終わりに時々このカフェに寄り、読書するのが好きらしい。
僕もたまにここに寄る。大抵はパソコンを持ち込み、仕事の準備をする。
「いやーほんと不思議です。でも、好きなバンドがホーム画面に載っていても僕は声かけられないです」
「なんかもう瞬間的にチャンスと思って。20年前に解散したバンド、周りで好きな人いないし」
いろんな偶然が重なって、僕たちは数時間も話している。共通点は好きなバンドだけではない。住んでいる区、好きなコーヒーも同じだ。
「そろそろ閉店ですよね。途中まで一緒に帰りませんか?」
「ですね。帰りましょう」
共通の将来を期待したのは僕だけだろうか。
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