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短編小説『悪くない脇道』

「おおー、よう似おうとる」
「うんうん。似おうとる」

ここには、オジサンしかいない。ママが一人で切り盛りしている、地方のカラオケスナック。

上司にセクハラされて、退職したのが2ヶ月前。慰謝料的なお金をもらったし、しばらくフラフラ過ごすつもりだった。

「お店、手伝ってみない?」とママに言われたタイミングが良かったのか、すんなり受け入れた。フラフラも飽きたし。そんで、エプロンつけて、今初めてカウンターに立ったってわけ。


「じゃあ、コーヒー淹れてもらおうかな」
「は?淹れたことないし」

『美雪ママの極上コーヒー』を目当てに来るお客さんが何人もいる。別に、やらしいことはしない。味が極上。

「マサオさんから注文入ってるし。美加ならできるできる。大丈夫」


ママに教えてもらいながら、真っ赤なマグカップに少しずつコーヒーが増える。え、何、めっちゃいい香り。


「おお、旨い旨い」
ふーん。このまま手伝う人生も考えよっかな。



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