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自分の人生を楽しむ。

26か27歳の頃、誰とも付き合わず、もうずっと1人でいいと思った。

5年半ほど付き合った恋人に浮気され、破局。結婚の約束はどこかへ飛んだ。


同棲を解消し、実家に戻った。恋人の代わりに携帯料金を払ったこともあるが、お金はすべて返らなかった。「時間もお金も無駄になった」と心底思い、悔み、悲しんだ。

5年半。厳密には5年8ヶ月と数日。決して短くはない。

浮気されたとはいえ、好きだから5年半以上も一緒にいた。この世の終わりだと思い、ある日は命を絶とうとも考えた。



しかし、すべては時間が解決した。誰かが言ってたとおりだった。

過去を取り戻すが如く、「お金も時間も私のために使おう」と誓った。母の遺伝なのか、私はもともと根が強い。

どんよりと暗く厚いグレーの雲が立ち去り、晴れ渡ったかのように、すっかり吹っ切れた。毎週のように服を買っては、心のままに1人ドライブ。好きなときに好きな場所へ行き、自分のために好きなだけお金も時間も使った。


恋愛しなくても楽しかった。バス乗り放題のチケットを買い、2泊3日の1人旅に出かけたこともある。強がりではなく、本当に楽しかった。

1人でも楽しいのだ。誰とも付き合わず、もうずっと1人でいいと思った。




1人を謳歌していた、2010年春。

宮崎県内で口蹄疫(こうていえき)が発生した。
宮崎は私の生まれ育った場所である。

感染が拡大し、宮崎県内で約30万頭の牛や豚が殺処分された。発生事例がもっとも多かったのは、母が生まれ育った町だ。

宮崎は2010年1月、鳥インフルエンザの感染が確認されていた。追い打ちをかけるように、口蹄疫も発生。


さらに翌年、2011年1月に新燃岳がマグマ噴火。約300年ぶりらしい。

宮崎県南部に火山灰や軽石が降り、農作物に被害が及んだ。空振(くうしん)で窓ガラスが割れた地域もある。


同年3月、東日本大震災。

同年5月、恋人ができた。



──5年半ほど付き合った恋人とは、無理をしていた。

20代後半は結婚や出産をかなり気にしていて、私に別れる選択肢はなかった。

代わりに家賃を全額払っても、他の女の子と仲良くしているのを目撃しても、彼の無職期間が長引いても、5年以上一緒にいて別れるなんて考えていなかった。


恋人はテニスやゲームや車に時間もお金も費やした。私は数えたくないほどお金を渡したし、無理して時間を作った。私のやりたいことは何なのか、真剣に考えなかった。


私はバウムクーヘンのように、何層も何層も無理を重ねていたのだ。

いつの間にかずっしりと重くのしかかっていたが、私は見ないふりをした。別れを避けるために。

でも、無理して一緒にいるのは間違いだったと、新たに恋人ができて気づいた。



2011年にSNSで出会った私たちは、年齢も生まれ育った場所も違う。でも、価値観がバシッと合い、あっという間に距離が縮まった。

映画を観ては同じように感じ、初めて聴いた音楽を「いいね!」と言い合った。何も無理はしていない。お互いの趣味を尊重し、それぞれ1人の時間も大切にした。

代わりに何万ものお金を支払うことはなく、時間を無駄にすることも、浮気の心配もない。

無理せず私らしくいられる場所は、こんなに心地いいのか…。


過去の5年8ヶ月を吹き飛ばすように、新たにできた恋人とは7年付き合った後、入籍した。今の夫である。



口蹄疫、東日本大震災は私に直接被害を与えたわけではない。畜産農家ではないし、地震でライフラインを絶たれたわけでもない。

しかし、多大なる影響を与えた。

いつどこで何が起こるか分からない。それをまざまざと感じたのだ。


いつどうなるか分からないなら、自分の人生を精一杯楽しもうと思った。
自分の人生を楽しむ。これがいつしか、私のモットーになった。

自分の人生を楽しむために、自分らしくいられる人と過ごす。
価値観が極端に違う人とは、無理して関わらない。

そう頑なに決めて、私の人生はより楽しくなっている。



この10年間、仕事による体調不良が何度か起きた。

自然災害だけではなく、自分の身にもいつ何が起きるのか分からない。気づかぬうちにまたバウムクーヘンを重ねていた、と身に沁みて感じた。

休職や退職を繰り返し、今は完全在宅で仕事をしている。無理を強いる仕事は絶対に選ばない。楽しみたいことがあれば優先し、いまいち体調が良くないときは積極的に休む。

仕事だけに専念せず、やりたいことを進める時間も意識的に増やしている。



今も、夫とともに人生を歩んでいる。

出会った当初は映画を観たり、旅行したり、ドライブしたりと、カップルなら一般的であろう過ごし方をした。

誰にも話せないことも、夫には不思議とふらっと言えた。やがて本当にやりたいことをお互いに伝え、私は4コマ漫画やエッセイに、夫はゲーム作りに精を出している。

「嫌だ」「違う」と思うことはお互いにハッキリ伝え、心地よさは相変わらず続いている。大きな喧嘩は一度もない。



『自分の人生を楽しむ』というモットーは今も変わらない。

無理して夫に尽くすことはないし、体調不良でしんどいときは必ず伝えている。夫も同じように、何かつらいときは伝えてくれる。

結婚式は挙げていない。2人とも、やりたいとは思わなかったからだ。私にウエディングドレスを着たい夢はないし、結婚式に呼ぶ友達は2人して少ない。

「結婚式より、新婚旅行にお金をかけたい」と意見が一致し、東京で好きなだけ時間を過ごした。帰る日を決めず、帰りたくなったら帰る。なんとも贅沢な新婚旅行だった。

何も無理をしていない。楽しい時間が大半を占めている。



『自分の人生を、夫と楽しむ』

今ならこれが正しい。ずっと1人でいいなんて、今は微塵も思わない。少しでも長く、夫と楽しい時間を過ごしたい。


私たちは今年の春、出会って10年を迎える。

今日、地震が起きるかもしれない。
明日、事故に巻き込まれるかもしれない。
夏、台風の被害に遭うかもしれない。
突然、病気になるかもしれない。

いろんな「かもしれない」があちこちに潜んでいる。私は少し怯えながら、なるべく楽しい時間を過ごしたいと日々もがいている。


北海道にも沖縄にも香川にも旅行できていない。食べていないもの、見ていないもの、聴いていないもの、まだまだたくさんある。

夫も私もやりたいことを進めてはいるが、なかなか結果は出ない。しかし、「いつ花が咲くのだろう?」と大きな楽しみが控えている。


楽しいことが、これからも私たちを待っている。


いつ終わるのか分からないこの人生は、きっと、ずっと、まだまだ楽しい。バウムクーヘンはもう食べ尽くした。

自分の人生を、夫とともに楽しむ。



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