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短編小説『フタをはめない人たち』

コーヒーが3割ぐらい落ちた。

しまった。歩くと、こんなに溢れるなんて。フタはプラスチックだし、てか、ゴミ増やしたくないしってケチったのが良くなかった。フタはいる。

音もなく、また落ちた。

熱い熱い熱い。熱いけど、熱そうな顔したら、コーヒーを落としながら歩いてることがバレちゃう。失態はこれ以上したくない。


私って、ほんと、自分でも呆れるぐらいこんなことが多い。

右のほうが早そうだし、と思って右を選ぶと、ろくな道じゃない。結局、皆と同じように左を選んだほうが早い。

コンビニでコーヒー淹れて、フタなしにする人ってどれくらいいるんだろう?きっと、その人とは友達になれると思う。

「熱いですよね!」なんて、
「すんって顔して歩きました」なんて笑い合ってさ。


前から、エコバッグぱんぱんで、片手に食パンを持った男性が歩いてくる。この人と私は、たぶん近いところにいる。

大丈夫じゃない人同士の会釈は、心地いい。あ、鼻水出てきた。



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