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短編小説『あの頃の』

「お客様、あと10分で閉店のため、ご準備お願いします」
「お、おぅ」

コーヒーが半分も残っている。淹れたてが売りなのに。


しかし、その男は15分経っても店を出る素振りはない。うなだれて、何だか僕まで暗くなりそうだ。

明日はお店の定休日。家族も約束もない。男の話を聞いてみたくなった。常連ではないが、どこかで見た気がする。



「お客様、お話聞きましょうか?よければ、もう1杯どうぞ」
「店長さん優しいなあ。聞いてくれるか?」

ノリノリやん。

「実は俺、米1合いう芸人やねん。知らんやろうけど」
「えー芸人さん!」
「新潟から大阪来ても、全然芽が出らんで。さっき相方と喧嘩してきてん。もう今年40なのにどうするん、いうて」

そうか…!

「まさか、みやびん?」
「え!中学の時のあだ名やん!」
「僕…その…ヒゲたろう」

教室で笑いをとっていた少年と、僕の店で再会するなんて。

「ヒゲたろう!懐かし!すげえな、コントか」

楽しい夜になりそうだ。


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