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【短編小説】モスグリーンの先へ

ベランダから見える、モスグリーンの淡い屋根。いつも見るばかりで、足を踏み入れようとはしなかった。

特に深い意味はない。近すぎるお店にはなぜか足が向かない。ただそれだけだ。


「足を踏み入れたい」と思い始めたのは、3ヶ月ほど前。テレビで喫茶店特集があり、馴染みのモスグリーンが映った。

そして、思いがけない子も映った。会うには無論、足を踏み入れるしかない。



テレビの影響はこんなにも凄まじいのかと、日々思い知らされた。連日、行列行列行列。

人がまばらになるまで3ヶ月近くかかった。そして今日だ。ついにあのモスグリーンの下へ、ついにあの子に会える。


落ち着いた時間帯だからか、物静かそうな店主が1人ホールに立っていた。

呟くように
「お好きな席へ」
とだけ言い、グラスを拭いている。

窓際に座り、ブレンドコーヒーを頼む。


幸運にも、まん丸な目をした黒猫はすぐ寄ってきた。私はこの子に逢いたかった。

ああ、きっと私は通うのだろう。



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