ローレンスの幸運保存則、あるいは不運総量定理
おやじの多機能ベストのポケットには、一つづつ銃弾の刺さったコインが入っている。
「日頃の行いが良かったからさ」俺が6つのとき、それが何なのかを尋ねたことがある。するとおやじはカラカラ笑ってそう言った。気前はいいし、日曜の礼拝にも遅れた事がないけれど、はたしてそこまでの事か?と思ったものだ。
結局お守りの謂れは聞きそびれたままで、仔細を聞いたのは葬式のとき。おやじの兄弟分からだった。
「ローレェーンス!」
「あ……?」
物思いを破り、安アパートの壁を野太い声が震わせる。ハンクス・ギャングの若頭、マクシムとかいったか?この品のない声は奴だろう。もうヤサが割れたか。ツイていない。
「そこにいんだろッ!出てこいやァ!」
以前、胡散臭い日系の占い師がこう言っていた。エネルギー保存則のように、運勢保存の法則がある。幸運の後には不運が来る。逆に不運が続けば、あとは幸運しかない。だから貴方はむしろ幸せ……よくあるスピリチュアル商売だ。問題は、おやじがそいつと親友だった事だ。
生涯幸運が続いた者には、どこで揺りもどしが来る?
「妙なマネすんなよ!例の『不運』の力も使うな!」
「待った!今行く!」
脱ぎ散らかしていたスーツを雑に身に着け、叫び返す。どいつもこいつも、たまたま間が悪いのを俺のせいにするんじゃない。
「手前のせいでこちとら大勢死んでんだ!今すぐ面見せなかったら部屋ごとブッ飛ばしてやる!10!9!」
ガンベルトをひっ掴み、路地裏側の窓から飛び出す。
「3……ア゙ーッ!我慢できねえ!」
直後、腹に響く低音が走り、俺の背中を追いかけてガラスのシャワーが降り注いだ。
例の占い師が立ち上げた教団「まことの福音会」はNYに根を下ろし、今や財界人やマフィアをも巻き込んだ一大勢力と化した。そして彼らはあるモノを求め、俺を追っている。「授かりし者」の並外れた幸運の謎を解く鍵、あるいは聖遺物と信じて。
そう、おやじのコインだ。
〈続く〉
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