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消えた歌枠に夢をみさせられた

 不穏な話ではなく、最初からそういう触れ込みで行われた配信の事である。「消える!ミュージカル歌枠」というのは約半年に一度、東堂コハクと周央サンゴの2人(以下おうとう)で行っているミュージカル曲縛りの歌配信のことだ。アーカイブも残らず、ミュージカルという縛りがあるからかひっそりと狭い範囲で、そして高い熱量で愛されていた枠だった。私は舞台やミュージカルを観た経験はあるが、この曲が好き!と言えるほどの知識のないタイプだ。それでもこの歌枠は本当に楽しみで、実際にこの配信をきっかけに7月にノートルダムの鐘を観劇した。

 10月17日、それがパワーアップした形で行われた。メンバーはおうとうの2人に同箱の後輩である宇佐美リト、佐伯イッテツを加えた4人。男声が加わることで歌える曲の幅が一気に広がるだけでなく、宇佐美リトは初配信からミュージカルが好きだと公言していたため様々な意味で待望の配信となっていた。その期待値の高さをパブサで感じていたし、実際に配信に集まった視聴者数も想像よりずっとずっと多かった。

 本編のセトリと1曲ずつの感想については割愛させてもらう。何故なら後から長々と言葉にするのが野暮に感じてしまったからだ。言葉にするほど、見せられないのが悔しくもなる。どうか次の機会にはぜひあなたにもご覧いただきたい。
 東堂コハクのチャンネルにて丁寧に振り返り配信がされているので、セトリ等が気になる方はそちらをぜひ。

 始まってから最後の曲まで本当にあっという間に過ぎた。有名な曲を多めに選んだ、と話すだけあって、初見の人や私のように知識のない者でもかなり聞き覚えのある曲が多かったように思う。なにより本当に、本当に楽しそうな4人が愛してやまないものを披露している姿と、それを純粋に驚き楽しむコメント欄の温かさの心地のよさと言ったらなかった。見返すことの叶わないこの一瞬に耳を傾けて楽しむのは、まさに本当に舞台を見ているようでもあった。
 配信が終わった後にTwitterトレンドの順位をぐんぐんと上げ、最終的に日本トレンド2位まで上り詰めていた。配信中にじっと耳を傾け、コメント欄で感嘆していた人たちが一斉に感想を呟いたタイミングだったのだろう。

 私がこの配信でなにより感動していたのは、シンプルに好きなことをしている姿を見る楽しさがあったからだ。ゲームも雑談も配信者の好みのスタイルでやっているのは百も承知ではあるが、そこから少し外れたニッチなジャンルのものになるといくら好きでも視聴者と分かち合うことが難しい、といった状態になるのはよくある。その難しさは権利問題であったり視聴者数の話であったりするが、企業所属である以上、そして配信を飯のタネにする以上は好きな気持ちだけでは難しいことが多々あるのは想像に容易い。現に台詞読みや声劇などの演技のジャンルはゲームに比べると人を集めるのが難しいと見ていて感じている。

 おうとうだけのミュージカル歌枠を見ていた時、私はこれほどまで大きな波となることが恥ずかしながら想像出来ていなかった。ミュージカルが好きで、2人で観劇にも行くおうとうが、半年に一度私たちにひっそりと歌って聴かせてくれる時間を大切にしよう、それで十分でこれ以上は望むまいと、勝手に思っていた。それは違ったのだなと気づかされた。勿論、単純に加わった2人のファンの分だけ見る人が増えたんじゃないの、と言われたらそれまでだが、こう、届いている感覚が傍から見ていても感じ取れたのだ。もしかしたらこの縁が、大きな何かを生むんじゃないかと期待を抱いている。具体的には、彼女ら彼らが3Dでミュージカル曲を披露したり、箱内のライバーとオリジナルのミュージカルを上演するに至ったり、そういう大きな発展があるといいなと夢を抱くようなパワーと反応があったように思う。

 好きなことで生きていくのを貫くのはとても難しい。好きなことをしながら生きていくのとはわけが違う。にじさんじという大きい箱は夢もあるが厳しい現実もちゃんとある。信念のために去った人も、試行錯誤しながら燻っている人もいる。様々な制約のある環境と生存競争の中で、自分の大好きを掲げて伝えてくれる姿を愛さずにはいられない。どうか次がありますように。好きなことが続けられますように。自身の目標に向かって、それが叶えられるような有意義な活動でありますように。オタクの身分では願うことしかできない。だから私はそれを願うし、いつかを夢みるのだ。

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