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【備忘録】流動性を作り出す3人目のプレー「私とあなたと彼の関係が三角関係とは限らない」

 前回、「時間を合わせる、タイミングを操る」ということについて深掘りしてみました。受け手と出し手はどちらが主導権を握るのか。そして受け手主導でのワンタッチのタイミング、ツータッチのタイミングでの動きだし、そしてその動き出しを囮にして空いたスペースにドリブルで入っていくプレーはフットサルだけでなく、サッカーでできないのか。というおはなしでした。


 今回は受け手と出し手という関係だけでなく、「3人目」という存在が関係してくることで何が生み出されるのかを深掘りしていきます。時間だけではなく、「空間をいかに操り、どこを空けて誰がどう使う(埋める)か」というサッカーセンスに必要だと考えているスペーシングのヒントになります。今回も「見る」ということに対してあえて深くは触れません。

①「3人目」ということば

 学生の頃、英語の授業で「三単現のS(主語が三人称単数で現在時制の文の時に動詞にSをつける)」という表現を教えられたかと思います。3人称があるのでもちろん1人称、2人称もあります。この【人称】について自分が英語の授業で説明する時に使うのが「もしも無人島で生活することになったら」という話。
 ①無人島には人類が【私1人】しかいない=1人称、私
 ②無人島に2人目の存在、【もう1人】生きている人間がいた=2人称、あなた
 ③その2人の世界(私とあなたの話の中)に登場してくる人物、ものなど=3人称

【1人称】 私、話し手
【2人称】 あなた、聞き手
【3人称】 私とあなた以外、話し手でも聞き手でもない存在
     (登場人物が増えると名前が必要)

 言うまでもないことですが【2人の関係】があり、そこに登場してくるのが3人目です。これをフットボールに置き換えてみます。

【1人称】 出し手
【2人称】 受け手
【3人称】 出し手でも受け手でもない存在

 この「出し手でも受け手でもない3人目の存在」が攻守において有効かつ厄介だというのは、フットボールをしている人はみんな知っていると思います。今回はそんな「3人目」という存在を攻撃の観点から紐解いてみます。

②「流動性」を作り出すのは3人目

 指導者をする前、プレーヤーとしても「3人目」の有効性は感じていましたが、明確なイメージがなく、なんとなく言葉が先行している状態でした。自分の中でより深く考え、より強い確信を持って強調して指導するようになったのは、2017年2月~3月に参加したJFAフットサルB級指導者ライセンス講習会での経験でした。
 定位置攻撃の講義において【Mobility :流動性】という言葉が出てきました。

[定義]流動性とは
 3,4人目が積極的に攻撃アクションへ関与する能力であり、ボールのないところでスペースを作り、埋め、利用する。(補足:2人目はボール保持者に対する1人目のサポートプレーヤーであり、既に直接的にボールへ関与している。流動性が現れるのは3人目の選手からである。)
2017年フットサルB級指導者ライセンス講習会より

 かつてオシムさんが「考えて走る」「ボールも人も動くサッカー」という表現をしていましたが、この「流動性を作るのは3人目」という表現はより具体性があり、イメージもしやすく自分の中でしっくりきました。

 そして講習受講中に自分の中で「3人目」を定義づけました。

[定義]3人目とは
出し手から受け手(2人組)の間をボールが移動中、またはボールが移動しそうなときに、それを予測して意図的にボールの移動と同時に動いている選手を3人目とする。マークしている守備者の視野外を移動できると尚良い。(簡単に言うと、誰かが誰かにパスしたボールの移動中に、自分も移動しましょう。ということです。)

 その講義の4ヶ月後に自分の中で「これが3人目であり、流動性のゴール」と思えるゴールが生まれます。リカルド・ロドリゲス監督(現浦和)が就任1年目だった徳島の「人とボールが動く、流れるような崩し」での杉本選手のゴール。

【公式】ゴール動画:杉本 太郎(徳島)62分 徳島ヴォルティスvs京都サンガF.C. 明治安田生命J2リーグ 第23節 2017/7/16

③「3人組≠3角形」〜3角形を作る〜という違和感

よく試合会場で選手や指導者が「(パスを繋ぐために)3角形を作ろう」と言うのを聞きます。自分自身も言葉として使いやすかったので6〜7年前まで使っていた気がします。パスを繋ぐための3角形を考えてみると「パスの選択肢が2つあることで守備者が守りにくく、パスの角度が縦ではなく斜めなら受け手も体の向きを前に向けやすい」というのが利点かなと思います。
 これは自分の解釈ですが、「3角形」というのは抽象度が高く、実際にピッチに立ってプレーしている選手たちにとって難易度が高い指示だと思っています。選手が自分、または自分たちを客観視して3角形を作るために自分の立ち位置を常に瞬時に調整できるのか。また、狙っている3角形の大きさ(距離)や形は選手間で共有できているのか。これらがトレーニングで落とし込めていないにも関わらず3角形を作らせようとするならば、ただの机上の空論になってしまいます。「トレーニングされていない抽象的なもの」はグループとして再現性が低くなります

 自分の場合は「上記の3角形」で得られるような利点を引き出しながら再現性を上げるために、3角形という「形」ではなく、「[定義]3人目とは」を原則として噛み砕いて選手に伝えています。
 自分(1人称)がボールを受ける前には次の受け手(2人称)、そしてその受け手と3人目(3人称)のつながり、関係性が見えればプレーが流れるように進みます。現場の指導で「メッセージが乗ったパスを出しなさい」という言葉を聞きますが、「出し手はボールを受ける前に見ておくこと」が前提となります。またそれだけでなく、「受け手主導で3人目とつながっておくこと」も成功の前提になります。(プレーの前中後の連続)サイド攻撃のコンセプト、「ポイント-ヨコが成立するなら、サンニンメが動き出せる」というのはそれらの原則の具体性を挙げたものの1つです。


 あくまで「3人組(2人組+3人目)」で流動性(過程)を作り出すプレー原則の結果が「3角形という見た目になった」と捉える方が自然であり、わかりやすいと思っています。そもそも3人(3点)でできる形は3角形だけなのでしょうか?小学生でもわかる問題ですね。

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 この図の左と中央の三角形も「単なる形」で捉えるのではなく、「2人組の関係+3人目」×2と捉えれば動きの連続性、流動性が出てくると思いませんか?

シーン① フットサルにおける流動性、3人目・4人目の動き出し。フットサルはまさに「2人組のボールの移動中に移動する」をポジションに関わらずコート全体で連続して行うことが必須である競技。受け手主導で動き出し、出し手がそれを見逃さない連続したプレーによってこのような崩しが生まれる。(興味がある人は、フットサル・クアトロで調べてみてください。)


 そして図の右の直線(3 on line)も同様に「2人組の関係+3人目」×2と捉えれば流動的になり、「3人組の形」が直線だろうと、3角形だろうと形は異なってもプレー原則は同じものになります。(抽象度を上げて原則とし、再現性を上げる)

シーン② 出し手と受け手の斜めの2人組の関係の間をボールの移動中にカットする。「自分が飛ばされたらボールを追い越していく⇄ボールを追い越していく自分の奥に飛ばさせる」


シーン③   スローインで瞬間的に3人が並んだときに「スロワーと奥が2人組+間の選手が3人目」となってボールの移動中に3人目が動き出し、先手をとった場面。

シーン④ 角にいる味方の後ろでサポートするのではなく、出し手と受け手の間をボールの移動中にカットし、走り抜けたことで、DFの視野外となり、誰にも捕まえられない状況を作った。DFは飛ばすパスを守るのか、間をカットするマークについていくのかを決めきれず中途半端になった。

④まとめ「3人目はDFの視野外(見えてるけど見えてないも含む)で動き出す」

 1週間前、教室での授業中に「脳」の話になり、その延長線上で「見えてるのに見えないこと」について生徒と話す機会がありました。「じゃあ実際に体験してみよう」ということで、緑色のペンで黒板の上にある校訓を指し、「どの文字が漢字か覚えてください」と指示し、そのすぐ後に赤色のペンで時計を指して「何時か覚えてください」と指示しました。その後、「今指したペンはそれぞれ何色か?」と聞いたところ35名の生徒が正解を答えられませんでした。(それぞれの対象物とペンが重なるぐらいで指していたので流石に全員答えれないとは思わなかったですが。笑)

 認知心理学の用語で「選択的注意(Selective attention)」と呼ばれる有名なものですが、「ボールの移動中に自分も移動する」という3人目の効果はここにあると思っています。DFがボールに目を奪われ、「マークとボールが同一視野内で見えてるはずなのに見えてない」、または「同一視野内に置くことを忘れた結果、ボールだけを見てしまい、一瞬視野外にマークを置いて見失ってしまう」という状況を作れれば守備者に後手を踏ませることができ、ズレができます。「見ていて面白いサッカーをする」という表現をプロから育成年代までよく聞きますが、「崩しがうまくて面白いな、すごいな」と思うプレーは、テレビや観客席で見ている人でさえ見えてないところ(画面や視野内にあるはずなのに!)にパスが出てゴールするような場面だと思います。「そこ見えてるのか!そこに出すのか!」と。

 よくあるルール設定ですが、「リターンなし」「(ルールのどこかで、または全て)ワンタッチ」というたった2つのルールをトレーニングの設定で組み込んで意識させることでサッカーだろうとフットサルだろうと、選手が2人の関係ではなく、次(未来)の3人目を勝手に意識し始めます。フットサルでは動き出しのタイミングやコース、守備者が迷う立ち位置でより細かくその点を突き詰めていきますが、今回はここまでにしておきます。


最後に【ゼロツー】で締めくくります。

 2人組(出し手と受け手)が成立したら、3人目が受け手主導でパワーを持って動き出す。【ゼロツー】とは3人目が2人組の間をカットすることで、ワンツーの「ワンのパス」がない、飛ばさせて3人目を使うプレー。何度も言いますが、3 on lineだろうと、3角形だろうと、スタートの形は関係ありません。3人目が2人の間を受け手主導で走ればゼロツー成立!

シーン⑤ ゴール前でのシンプルなゼロツー。自分が受けてからワンツーで裏を取るのではなく、自分の目の前にある2人組の成立を見て、「ワン」を飛ばして「ツー」を受ける。守備者の間かつ視野外を走ることで対応が遅れた。

シーン⑥ 後方でのゼロツーの応用版。ボールを持っている選手の近くで後ろ向きで2人目として受けようとして相手の注意を引きつける。飛ばされたらボールの移動中に移動して3人目を経由して4人目として前を向く。その時には右サイドの選手がボールの移動中に走り出し、相手の裏をとっていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。何かの参考になれば幸いです。


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