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WiFiなき生活とモスバーガー

257MB。おしい、と思った。それと同時に、やばい、とも思う。通信制限は3.1GBしかないのに、1日目でこれかよ。
WiFiがない生活に、僕はまだ慣れていない。中学生のあたりから、僕の生活はWiFiとともにあったから。たまごっちが音を立てていたころだって、知らず知らずのうちに侵略の準備は始まっていたのだった。
とは言え、悪いばかりじゃない。現に僕はその恩恵を得るために、モスバーガーに向かっている。
時間は22時。友人から電話がかかってくる前には到着する。WiFiを繋いで、僕は友人からの電話に出た。

久しぶりの声に、僕は少し安心する。
最近引っ越したばかりの友人だ、さぞ今の生活は楽しいだろうと思うとその通りらしく、さっそく好きな人と遊んだ話をしてくれた。

僕はこの友人を、一友人として心配してきた。
僕にとっては少ない友人の中の、心配な友人枠だが、彼女にとっては心配してくれる友人の中の一握りなのだろう。それを隠さず匂わせてくれるところが、僕を安心させる。

この友人に対する心配の発端は、数か月前に及ぶ。大学を卒業し就労した彼女の就職先は、俗に言うブラックだった。
夢を持って就職したこともあり、当初は無理を押して頑張っているようだった。Twitterで散見される、求肥に包まれた黒色のネガティブを、つつく勇気はなかった。
しかし、その皮はしばらくすれば剥がれていき、ついに深夜の23時に職場で通話に参加してきたあたりで決定的になった。真面目な彼女が職場でSNSをしなければならない状態は、異常だった。
しばらくして、彼女はその職場を離れた。僕だけでないが、彼女の友人らはそれを強く推奨した。
すべては賢明な判断だったと思う。

人の生活に変化を及ぼそうとする時、責任が伴うと考える人が多い。僕も昔はそうで、そのせいで、僕は動けなくなっていた。

彼女は職場を離れ、有給を使って休息を取り、そして新天地へ向かった。
その前に職場探しや住居探しなど、入念な準備を行ったことは尊敬に値する。彼女が大学時代に取っていた資格が生きたそうだ。
そうして今いる場所から、僕に電話が届く。
現金な彼女は、好きな人の近くに居を構えたらしい。素敵だ。

しばらく彼女の話が続き、やがて僕の番になる。最近別れたんだよね、と告げる。

僕も同じく、好きな人を追って転居をしたものだった。
彼女と違い、スキルも経験もなかったし、ありあまる才能でカバーできる感じでもなかったから、状況は違うかもしれない。
でも、僕は彼女を応援したくなったのだ。
僕は幸せになるだろう。そうすれば、彼女も幸せになれるはずだ。

自由に生きるには、なにかしらの責任が伴うらしい。
ある意味で、僕は今、その責任を取っているところなのかもね。
残念ながら、僕の責任は、僕のものだ。気持ちとして転嫁はできても、実際のところはできない。

責任はその人のものだ。僕は今の生活を、後悔していない。後悔することで解決することは、基本的にないからだ。
だから僕は、彼女の人生を彼女の責任にした上で、堂々と応援するつもりだ。僕らは幸せになれるだろう。なぜなら、物語の区切りをどこで付けるか、その終わり方をどう解釈するかは、ありあまる僕らの自由だから。

気付けば23時を回ったところだった。いずれ彼女に会うときは、いい報告ができるといい。

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