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ハローワーク、お花畑の夢見る少女は、あっという間に泥まみれになった

-BBAサバイバル8-

ハローワークで最初の登録をしたのは職場の近くの職安で、年明けすぐのことだった。日暮れが近かった。人の少ないぼんやりした室内で、エリートサラリーマンといった風の若い職員が対応してくれた。

毎日忙しく仕事をしていたので、「職探し」は全く実感がなかった。ネットの転職サイトで、職歴や資格を入力すると、「あなたの年収は○○○○」とか表示されるものがある。どのサイトを見ても、夢のようにゴージャスな年収がでてきて、ため息をついたものだ。世の中にはイイシゴトがたくさんあるんだと思った。まるで中学生並みだ。このゴタゴタが片付いたら、次はどんな仕事に就こうか、あれこれ思い描いていた。デコレーションケーキのような未来を思うと、踏んだり蹴ったりの現実も何とか耐え忍ぶことが出来た。ここさえ凌げば、明るい未来が待っている、はず。

WEB登録をするからと、あれこれ記入した用紙をイケメン職員に渡す。ツーブロックのフンワリヘアは、メンズ雑誌の表紙でよく見かけるタイプ。
「あんまり準備してこなかったので、卒業時期とか、あやふやですけど」
「その辺は大丈夫、あとからでも訂正できますから。それより、ここ、これでいいんですか」
「ん?、どこ?」
字が小さくて読めない。

ご指摘を受けたのは、「職種」と「正社員」と「月収希望額」。お花畑の少女は、自分の思っている通りのことを記入した。みみずは正直な人間だ。

「もう少し幅を持たせるとかした方が、探しやすくなりますよ」
「とりあえずこれで」
みみずはファーストクラスの乗客がしけた機内サービスを断るときのように、優雅に微笑んだ。NO・サンク・ユー。
「一度登録しても、また、修正できますからね。」

窓の外はすっかり日が落ちて、いつの間にかもう誰もいない。もう、5時を回っている。
「すみません、時間過ぎちゃって」

以来、ハローワークに行く度、件のご指摘の項目に変更を加えている。もはや原形をとどめない、と言うより、無条件降伏の状態。

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