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【短歌集】絵の具の箱庭 

パレットに滲む絵の具の黒に似た涙が伯父の遺骨に染みる


春風をふくみふくらむカーテンに包(くる)まる君の顔の小ささ


孫たちがおはじき弾く音を背に船漕ぐ祖父の小さな背中


花筏(はないかだ)すら見ぬ伯母の目に留まる桜を描く無心の零時


「神様はいるの?」と天を仰ぎ見る子の足元の雀の巣箱


最終のバスを逃した我が足をファイトと四度叩くイキシア


芍薬を和紙のように透かし見て春陽麗和(しゅんようれいわ)に指が震える


躑躅花にほふおとめが蜜を吸ふ 花を千切れぬ我を憂ひて


そよ風にゆらゆら揺れる藤花(とうか)観て「似てる」と笑う三つ編みの稚児


青龍の鱗思わす雲を背に駆けて飛び込む恋人の胸


間違えた別れ傘の線を消す修正液の白に見惚れる


凹凸のある苦瓜の凸よりも硬い母の右手の節々


携帯を熊猫(パンダ)を愛でるように持つ 白黒つける電話と悟り


ピンと張る子猫の髭に人生を重ね天へと伸びゆく背筋


肩を組み友と並んで歩く子の足の付け根に触れる秋桜(コスモス)


餌を狩る鮫より速く深海に引きずり込まれ沈む我が恋


下を向き「泣くな」と放つ君の手が握るゲームの音色が響く


松の木を見上げ目にする木漏れ日のような貴方の熱に触れたい


潔く手折(たお)る決意も出来ぬ手に友が手渡す青薔薇一輪


舌先に残る火傷のざらつきが気になる夜に嫉妬自覚す


海水に悴む脚を浸したら骨まで溶けて人魚に還る


子が母を見つけ駆け出す ガーベラを風車(かざぐるま)より速く回して


ガーベラを持ち風を切り駆ける子のくるくる変わる身振りが愛(めぐ)し


半日もバスに揺られる恋だから途中下車するいわれはないの


ライバルが恋の火花を散らすときジョウビタキが大声で鳴く


ぽとぽとと落ちる椿に似た涙なら恋人の縁も切れるの


己(おの)が身に絡む毛糸を振り解き駆け出す猫の四肢の躍動


母が擦るりんごに混ぜて飲む薬なら効く 我を蝕む鬱も


赤薔薇の花梗(かこう)が内(うち)に取り込んだ朝露よりも麗しき日々


とりどりの絵の具で染まる雑巾は絵画でないが駄作ではない



詠み手よりメッセージ。

2024年4月に詠んだ短歌の中から、自選で30首を選び、ひとつの短歌集にまとめました。

(短歌集としてまとめるにあたり、推敲し直し、詠みを変えている短歌がございます。改変前の短歌が好きだった方、申し訳ございません。予めご了承くださいますと幸いです。)


とりどりの絵の具で描いたような短歌たちです。

時に色の鮮やかさに目を凝らしながら、時に色の濁りの深みを味わいながら。

フレームにとらわれない、型にはまらず、楽しめる短歌を目指して詠みました。

キャンバスに絵の具で描いた絵のような短歌たちを、どうかご鑑賞頂けますと、詠み手として、この上なく幸せでございます。

最後になりましたが、この短歌集にお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。

感謝申し上げます。ではまたお会いできる日を楽しみにしております。では失礼いたします。

2024年4月30日
絵の具の色の煌めきに、徹夜明けの目を細めている、ポッカ

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