眼球にくちづけを。中野視点6話

なんでこうなってしまったんだろう。なんとか、家までたどり着いて、
自分の部屋に戻り、今日の出来事を思い返す。
急に昔の話をされて動揺してしまった。
別に隠すような事でもないが、それでも、
病気のせいでこうなったことを悟られるのは絶対に阻止したかった。
最善ではあったけど、悪手だった。
「どん詰まりか。」
変な始まりで、普通の出会いでは無かったけど、
それでもすごく楽しかった。真田君を知っていくことで、
好きにさせるはずだったのに、どんどん私が好きになった。
「やだなぁ。ずっと一緒にいたかったなぁ。」
そんな言葉を吐いても自分の行いをキャンセルは出来ないし、
取り戻すこともできない。きっかけペコのせいだけど、
遅かれ早かれこの問題にはぶち当たっていたと思う。
でも、私は諦めてない。諦めきれない。
ずっと真田君を見てきたからこそ、ワンチャンある。
と確信していた。
それは、条件付けをして今日の出来事自体をなくすことだった。
彼なら絶対に乗ってくれる。とりあえず、LINEを送ろう。
『先に帰ってとは言ったけど、本当に帰るのは酷すぎへん?
 お金も私が払ったんやけど。』
向こうに非があるような文言を並べる。ずるい女だ。
私なら返信しない。続けて、
『本当にごめんなんやけど、今日の事は一旦無しにしてくれへん?
 ペコが心配してくれてるのも理解はしてる。でも本当に私の問題やねん。 
 解決うんぬんは出来るかわからんけど、
 時期が来たら真田君に絶対伝えるから。』
これを送れば絶対に返してくれる自信があった。
だって、真田君は優しいから。すぐにスマホが鳴る。
『俺のほうこそ、ごめんなさい。カッとなってしまって、
 言わんでいいような事まで言ってしまいました。反省してます。
 コーヒー代はお返しします。』
どんだけ優しいんだ。私みたいなやつにでも。
私の神様は真田君みたいな人がよかった。
『真田君やペコの気持ちを蔑ろにした私が悪いから。
 あ、ちなみにコーヒー代は今日から値上がりしてて、
 一杯1500円でした。笑』
真剣な謝罪ばかりじゃ気が重たいので冗談も入れてみる。
大丈夫、真田君だったら受け入れてくれる。
『コーヒー代の件、了解しました。熨斗つけてお返しします。』
あれ?これは真に受けたかな?
でも普通に返信してくれるだけでただただ嬉しい。
『真田君、冗談やで?』
その後も、いつものようにLINEで会話をしてくれた。
でも最近、携帯を長時間見ていると異常に目が疲れる。
もう、見えなくなる時間はそこまで来ている。
真田君に寝ると伝えて、メールを終了しよう。
その返事に、
『おやすみなさい。良い夢見ろよー。』
と返信が来た。いやいや、本当に底なしの優しさだな君は。
離れるのが嫌で、この関係を続ける道を模索するがそんな道はなかった。
いっそのこと病気の事を言おうかとも考えたが、
伝えたうえで仮に付き合えたとしても同情されているとしか私は思えない。
伝えて離れていったら、私はたぶんこの先、本当の意味で生きていけない。次に二人で会うのが最後かな。彼の為に私ができる事って何だろう。
最後くらい、自分にとっても最高の思い出作りをしても
ばちはあたらないよね。

ごめん、本当にごめんなさい。真田君、大好きだよ。
こんなに人を好きになったことはないし、この先もきっとないと思う。
仮に私の計画がすべてうまくいって、手術が成功しても会いにはいけない。
どの面さげて会いに行こうというんだ。
そしてきっと、この気持ちは本人に伝えるようなことはしないだろう。
だって、彼の人生の中で極力綺麗な思い出として私は残りたい。
きっと恨まれるんだろうけど。
全部私の我儘。それでもきっと彼は何も言わずに付き合ってくれる。
だめだ、熱中しているのは私の方だ。

眼球にくちづけを。中野視点7話|宇吉 (note.com)

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