眼球にくちづけを。中野視点9話

それは長い話だった。聞くのがではない。物語がだ。
あの日、私が決意して消えた日から、真田君は私の病気の事を知っていた。
知って尚、私の事を想ってくれていたのだ。
私は馬鹿だ。阿保だ。最低だ。。。
彼をこんな風に縛り付けるつもりなんて一つもなかった。
最低なのに、私は真田君が私を想ってくれていた喜びが勝っている。
真田君を見つめる。真田君だ。5年前よりも身長が伸びている。
うん、5年前よりももっとカッコよくなってる。
真田君の発言一つ一つの優しさに包まれている。
私が、5年間で失ったものを与えてくれているような気さえした。
「なんでそんなことしたん?」
それでも聞かずにはいられなかった。
「え?人の話聞いてた?意地でも寄り添うためやん。
 その決意だけで、今日ここにいるんよ。」
でもまさか、在学中に手術できるとは想定外だったみたいで、
まだ看護資格持ってないから、院長に直談判したらしい。
最初は絶対にあかん、ふざけるなって何度も突っぱねられたけど、
向こうが折れるまでやってやったそう。紙を見せてくれた。
そこに書いてあったのは、私が入院中の間、
手術以外で身の回りで怪我をした場合、全ての責任を甲がとることとする。その甲の部分に真田君の名前と両親の名前があった。
「まぁ、もしもの事があったら病院の威信に係ることだからね。
 中野さんの両親も快く了承してくれてよかったよ。でもよかった。
 あの時決意したことが実現できて。」
と笑っている。
「中野さんが僕にしたことのこれが僕なりの仕返しや。
 途中何回も声かけそうになったけど、
 中野さんの決意を無駄にもしたくなかったし。
 でも最高のサプライズやったやろ?」
生きてきた中で一番うれしい。でも、
そんなことは恥ずかしいから言いたくない。
「私は真田君に目の手術をしてほしかった。」
おどけて見せる。
「それは無茶やん。しかもドナーが現れへんかったら
 目も治らんかったしその時に医者になっても何の意味もないやん。」
真田君はこういう時でも真面目だ。変わってない。
「それでも、、、」
だめだ、彼に甘えてしまう。ポンと頭の上に手を置かれた。
「手術が失敗してたら、僕は看護師として一生寄り添うつもりやったんよ。  
 それじゃあかんかったかな。」
首を横に振る。そんな事を言いたいわけではない。
「でも、中野さんの眼が見えるようなった今、看護師の資格とった後、
 看護師として働きながら勉強するよ。医者になるために。」
あぁ、きっと真田君には一生頭が上がらない。
「私の事、恨んでないの?」
一番聞きたかった事を聞いてみた。
「うんにゃ、ひとつも。僕が一番熱中できるものを用意してくれて、
 僕に目標をくれた人の事を恨むなんて出来へんやろ。」
と笑っている。
一つどうしても再現したいことがあった。
たぶん、真田君なら答えてくれる。

「真田君、ひとつ聞いていい?」
「僕に答えられる範囲であれば。」
あぁ、、、
「最近、熱中してる?」
「してるよ。」
本当に彼は優しい。
「なにに?」
「中野さんに。」
彼は照れ臭そうに言ってくれた。

ありがとう。本当にありがとう。
私はこの5年間、このやり取りだけを救いに生きてきた。
きっと一生感謝しても足りない。

私が退院の日、彼も期限付きの無免許看護師だったため、
受け入れてくれた院長に挨拶をしに行っていた。病室で彼の帰りを待つ。
「あぁ、お待たせ。めっちゃねちねち言われたよ。
 もし医者の免許をとってもこんなとこで絶対働いてやんないよ。」
この5年間に比べたら一瞬であったが、
もう、真田君から片時も離れたくない。
「こないだ、頭の上に手を置いたでしょ。
 あれほかの人にやってたら、嫌いになるからね。
 私嫉妬深いからそこらへんよろしく。」
いやな女と思われるかな?
「するわけないでしょ。あ、これあげる。」
そういわれて手渡されたのは、ライブのチケットだった。
とっててくれたんだ。
5年前一緒に行こうといってくれたロボチョッパーのライブ。
5年間泣かなかったせいか涙腺が弱くなった気がする。
「行くって約束したからね。でも本当に渡したいのはこっち。」
そういって渡されたのは、京都の野外フェスのチケットだった。
「これも中野さんと行きたかったから、一回も行ってなかったんだよ。
 健気だなー俺も。」
と言って笑っている。
「しかも、今年もロボチョッパーが来るんだよね。
 相変わらず、サブステージだけど。
 今年はちょっとしたサプライズもあるよ。
 これでもまだ心配かな?」
どうしよう、真田君の事が好き過ぎる。
でもきっと、彼に伝えると知ってると言われそうなので、
「うん。」
といってやった。

中野視点10話:眼球にくちづけを。中野視点10話|宇吉 (note.com)

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